【第六部】第六十五章 出立前日⑨ 剣術指南③
――富央城・本丸・椿の屋敷――
「「「おおおお~~~~!!!!」」」
仲間内から琥珀に拍手が飛ぶ。とんでもない威力の真空波だ。さもあらん。
「ちょ!! お前達!! わかっててやらせたな!?」
「いや、何がだ。琥珀が気の扱いを得意なのは仲間だから知ってたが、まさかここまでのことになるとは……」
『だましたな!!』と椿がにらんでくるが、神楽は直視を避ける。器物破損までしてしまっているし、罪悪感は当然持っている。
「こ、こんなに強いなら、剣術など不要だっただろう!?」
確かに、椿が琥珀の強さを目の当たりにしたのはこれが始めてかもしれない。天守閣戦では、椿が入り口にたどり着いた時には既に琥珀は満身創痍だったのだから。
「いいじゃないか。頼もしい戦力になるぞ?」
「それはそうだが! それはそうだが!? 剣術は、私達にとって、妖獣におとる肉体の差を埋めるために必死にあみだしたものなのだ!! これでは、さらに埋めようがなくなるではないか!?」
「それはそうだが……お、落ち着け!! 琥珀は味方だ! 味方!!」
椿に胸ぐらをつかまれる神楽。椿は涙目だ。琥珀がここまで強いとは思っていなかったのだろう。
やがて、神楽の胸ぐらから手を離すと、意気消沈してしまう。
「もういい……これは、一昨日無理に付き合わせたわびと考えることにする。だが、師弟関係はここまでだな……」
「そんにゃ!? 師匠!?」
「誰が師匠だ!! お前は私よりもよっぽど強いではないか!?」
すがり付く琥珀を振り払う椿。だが、琥珀はめげずに椿にすがり付く。
琥珀からしたら、やっと見つけた自分が強くなる手段なのだ。簡単に手放せる訳がない。
「うちは強くならなきゃいけないにゃ!! もっともっと強くならなきゃいけないにゃ!! それで、ご主人も、みんなも、師匠も、みんなも、守れるようになりたいにゃ!!!!」
「私も……?」
琥珀が必死に伝える想い。琥珀の本音だ。
「そうにゃ!! 師匠も、お姫様も、もう仲間にゃ!! うちは、仲間をみんな守れるくらい強くなりたいにゃ!! だから――」
なおも言葉を続けようとする琥珀の頭に椿の手が置かれる。優しくなでて、琥珀を胸元に抱きいれた。
「すまなかった……。嫉妬だな、見苦しい……。お前の言う通りだ。人間、妖獣、それ以前に私達は仲間だ。それを守れるように強くなりたい。それだけのことだな……」
「師匠……」
琥珀の目もうるむ。いつの間にか、師弟愛が育まれている。
(やっぱり椿に頼んでよかった。相性バッチリだな)
神楽がふと青姫の方を伺うと、着物の袖で口元を隠していたが、悪い笑みを浮かべているのは一目瞭然だった。
神楽の視線に気付き、青姫が笑う。
――何はともあれ、この日、琥珀は椿に弟子入りした!




