【第六部】第五十九章 出立前日③
――富央城・本丸・仮設指令所――
「そう言えば、衛は? 参戦するのか?」
「衛は留城の守備だ。向こうもおろそかにはできないからな。昨晩、手勢を引き連れ出立した」
「大丈夫なのか? 才能があるのは俺にもわかるが、まだ若いだろ」
「衛は聡い。大抵のことはこなせるだろう。それに、自分の手に負えない事柄に出会えば、私や椿に直ぐ様連絡を取る潔さもある。――衛のような若者に負担をかけていることには忸怩たる思いがあるがな……。だが、その余裕すら無い。育つのを悠長に待っている間に滅んでしまっては元も子もない」
神楽としては衛の姿が見えないことに対しての疑問をぶつけただけだったが、法明からは思いの外饒舌な返答がある。
本人の言う通り、年若い者に大きな負担をかけてしまっていることを恥じているのだろう。
神楽としても、別に非難や追求がしたかった訳ではないため、話題を変えようと試みる。椿に相談事があるのだ。
「椿。忙しいところ悪いが、どこかで時間を取れないか?」
「うん? 今ここでは駄目なのか?」
「いや、なんと言うか……。個人的な話と言うか……」
「こ、個人的な話!?」
なぜかイワナガヒメが過剰に反応する。ソワソワしだした。――まず、間違いなく誤解しているだろう。
空気を読んだ法明が、イワナガヒメの手を取る。
「作戦の概要については既に話し終えている。――姫様。行きましょう」
「――あ!……ちょっ!? 法明!?」
話を聞きたそうなイワナガヒメだったが、未練がましい目を向けながらも法明に連れて行かれた。
イワナガヒメに申し訳なく思いつつも、神楽は椿に向き直る。
「それで? 話というのは何だ?」
「単刀直入に言う。琥珀に剣術を教えてやって欲しい」




