【第六部】第五十八章 出立前日②
――富央城・本丸・仮設指令所――
「そう言えば、コノハナサクヤヒメ――様と彩乃は?」
神楽は辺りを見回すも二人の姿は無い。昨日の会議にもいなかったので少し気にかかっていた。
「サクヤ様の体調が思わしくないようでな。寝所でお休みになられてる。彩乃はその看病だ」
「え!? 大丈夫なのか!?」
椿も心配そうだ。少し様子を見に行った方がいいだろうか。
「お見舞いに行こうかな……」
「その気持ちは有り難いが……辞めておいた方がいい。――少し、彩乃の気が立っていてな」
「そうか……」
敬愛する主人が不調とあらば、信頼できる者以外近寄らせたくないというのは確かにそうだろう。
一昨日妖獣との大規模戦闘をしたならなおのこと。妖獣を仲間にしている神楽が歓迎されないことは想像にかたくない。
椿は直接的な言葉は避けているが、そういうことなのは神楽にも感じ取れた。
「お気を悪くさせてしまい、申し訳ありません、神楽様……。その……皆がそうというわけではないのです。こたびの神楽様達のお働きで、皆が神楽様達を受け入れ始めているのは確かなのです。神楽様達のいない集まりでも、称賛の声を聞くことも増えましたし」
「ん? ああ、気を使わせちゃったか。いいよ、気にしてない、ありがとな。妖獣と戦争してるんだ。俺のことを気に入らないやつらがいることはなんら不思議じゃない。単にコノハナサクヤヒメさ――えぇいめんどくさい! ――サクヤ様の体調が心配だっただけだ」
しょぼんとするイワナガヒメを慰める神楽。「妹がお気をわずらわせ申し訳ないです」と謝られるが、「全然気にすることない」と両手をふって押し留める。
話題を変えるため、椿に話を振る。
「椿も参戦するのか?」
「ん? ああ、私はこの城で留守番だ。南や東にも敵はいるからな。帰ってきたら城が奪われてましたは笑えないだろう?」
「それは確かに笑えない」
そう言いつつも、神楽は椿と二人笑い合う。法明にジト目でにらまれる。
「……本当に頼むぞ? 姫様達をお守りできるのはお前達だけなのだからな」
「わかっている。何があろうと、身命を賭して必ずや守りきってみせる。――琥珀、も頼むぞ?」
少し遠慮がちに椿が琥珀に話をふる。一昨日の天守閣戦での出来事をまだ少し引きずっているようだった。
「うちに任せるにゃ!! 捕虜もお姫様もみんな守ってみせるにゃ!!」
「捕虜……?」
拳を手のひらにバシッと当てて意気込む琥珀。椿は疑問符を浮かべているが、法明とイワナガヒメは直ぐ様事情を察したようだ。
「困ったことがあったら言ってくれ。――暴走は無いと信じたいが、絶対とも言い切れん」
「そうですね。そこまで考えてのことだったのですね、流石は神楽様です。皆を信じてはいますが、わたくしも注意しておくようにします」
「ありがとう。もしもの時は頼む。琥珀を助けてやって欲しい」




