【第六部】第五十七章 出立前日①
【鬼月まであと16日】
翌日。神楽達は、本丸にある仮設指令所に足を運んでいた。
馬頭を迎撃するため空香溪谷に出立するのは明日だ。今日は、その準備日としてあてがわれていた。
富央城内には朝から慌ただしさがあるも、元より身軽な神楽達にはあまり影響は無かった。
椿や法明達がどのような軍編成が知りたかったため、本丸への仮設指令所に来ていた。
◆
――富央城・本丸・仮設指令所――
「おはようございます! 神楽様!!」
「おはよう、姫様」
仮設指令所に入ったところ、真っ先に神楽達に気付いたイワナガヒメがパタパタと小走りで走りよってくる。ニコニコと嬉しそうだ。
神楽と挨拶を交わした後は他の皆とも交わし、それがすんだら稲姫と楽しそうにおしゃべりしている。
室内には他に十人程の姿があった。まだ朝だと言うのに、指示を受けては小走りで退室するなどせわしない。
奥の方には椿と法明の姿があった。神楽は軽く手を上げ近付いていく。
向こうも気付いたようだ。話すことがあるようで、椿がクイクイと神楽を手招きする。
◆
「おはようさん」
「ああ、おはよう」
神楽は椿と軽く挨拶を交わす。元気そうだ。法明とは、なんとなく無言でうなずき合うだけ。特に理由は無い。それが自然に思えたからそうしているだけだ。
「出立は明日だ。準備はいいのか?」
「俺達は元々身軽だからな。食糧くらいしか必要ない。暇をもて余してるくらいだ。そっちは? 軍の編成は決まったのか?」
ここに来た目的だった。明日は誰が動向するのか知っておきたい。
「今回は法明が大将として指揮を取る。今回は遠距離の術戦になるだろうからな。私よりも適任だろう」
「確かにな」
「今回迎撃に向かうのは千五百。内訳は、およそ二対一で陰陽師と侍だ。遠距離戦とは言っても、近寄られれば近接戦にはなる。それに備えて侍がいた方がいいからな」
「そうだな。妥当な判断だと思う」
法明の考えを肯定しつつも神楽は冷や汗をかく。
――琥珀の視線が痛い!!
留守番に一応は納得した琥珀だが、神楽と一緒にいたいという気持ちは持ち続けているのだ。捕虜を守るためお留守番をいいつかった訳だが、やはり思うところはあるのだろう。
「馬頭の群れは二千くらいだったか」
「ああ。人数はこちらが劣るが、練度はこちらが上だ。烏天狗の実力は読みきれないが、法明なら上手くさばくだろう」
「簡単に言ってくれる……とは思うが、そうするしかないからな。神楽。蛟殿。その力、あてにさせてもらうぞ?」
その後は地図を見ながら、どこに布陣するかの説明を受ける。
参戦する諸将には指令としてふれまわっているとのこと。神楽にも伝令が行く手筈だったようだが、神楽がこちらに出向いたため、直接話すことに。
戦の準備は着々と進められていた。




