【第六部】第五十五章 人質③
◆◆◆
黒天から罵声を浴びせられた馬頭は怒りもあらわに鼻をブルルと鳴らす。
だが、だからと言って黒天との対決に応じるかは話が別だ。
馬頭は短慮だが、警戒心は強かった。自分よりも強い存在はいる。それは素直に――ではないが、認め納得している。
『どうした!! 怖じ気付いたのか!? 俺と戦え!!』
『生意気な鳥もどきが、俺と対等でいるつもりか!? ――おい、お前達!!』
馬頭は配下に呼び掛ける。
細かい指示を出さずとも配下達は一斉に動き出し、黒天――にではなく、女達に向かい歩き出した。
『待て! 俺だ!! お前達の相手は俺だ!!』
黒天が叫ぶも、馬頭の配下が歩みを止めることはなかった。やがて、女達の背後にそれぞれ回り込み、首を腕で締め付ける。
『やめろ!!』
『動くな!! ――望み通り戦ってやろう』
『人質がいなきゃまともに戦えないのか! クズ野郎!!』
『ダマれッ!!』
黒天を縛る縄は、馬頭の配下が手に持っている。馬頭がアゴをしゃくると、他の配下も集まり黒天を押さえ付けた。
そして始まる、見せしめのための“処刑”。
配下に押さえつけさせ身動きの取れない黒天を馬頭は笑いながら殴り続けた。
馬頭は腕力だけで言えば、烏天狗の比ではない程強い。
その圧倒的な暴力が止まることを知らず黒天に襲いかかる。
血が飛び散り、重い打撃音が鳴り響く。
女達からは悲鳴や嗚咽がもれ、八咫達は動きたくても女達全員を馬頭の配下に拘束され手も足も出せない。男達は歯を食い縛り拳を強く握りしめることしかできない。
『黒天……』
『………………』
八咫が迷いながらも黒天を助けに行こうとするのを、当の黒天が止めた。
手足を押さえつけられ身動きは取れなかったが、うつむき口だけを動かし『みんなをたのむ』とだけ伝えた。それが黒天が唯一できる精一杯だった。
どれ程の時間が経っただろうか。やがて、終わりが訪れる。
馬頭はつまらなそうにブルルと鼻を鳴らす。そして、後始末を配下に指示しその場を去った。
ドサッと音が鳴る。
動かなくなった黒天が地面に倒れ込む音だ。馬頭の配下は小鬼達を呼び出し、死体の後始末をさせる。
黒天が乱雑に運ばれていくのを皆、ただ見ていることしかできなかった。
そして、八咫達男衆は女達と引き離され、人質を取られながら強制的に働かされるのだった。
◆◆◆




