【第六部】第五十四章 人質②
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八咫達烏天狗は馬頭に連行され後城へと入った。
そこは、至るところに水路が張り巡らされた水の都とも呼べる場所だった。
ガサツな馬頭達が造れるとは到底思えない。人間達から奪ったものだと察することは八咫達にも容易だった。
手を縄で縛られ連行される烏天狗達。八咫達戦闘を得意とする男衆に至っては、胴も縄でぐるぐる巻きに縛られていた。飛んで逃げることがないよう、背中の黒翼にも食い込むよう縄でしめられた。
屈辱に耐えつつ、大人しく従うしか選ぶ道はなかった。
ある程度城内を進むと、馬頭は烏天狗達を男と女に分けた。
『女共はこっちだ!! 男共は向こうの屋敷にでもつめておけ! ――おい、お前!! 男共を連れていけ!!』
『はっ!!』
馬頭は自ら女達の縄を引き、配下に男達を任せた。
縄で縛られた烏天狗の男の一人――黒天が叫ぶ。
『ふざけるな!! そいつらをどうするつもりだ!? 卑怯者が!! 正々堂々俺と戦え!!』
だが、それが事態の悪化を招く。
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黒天は里の中でも特に強力な力を持っていた。二番目に強いと評される程に。
なお、一番は八咫だ。烏天狗の里では、最も力を持つ者に八咫の名が与えられる。
八咫の元々の名は黒斗。黒天と競い合うように技を高め、ついには里一番の実力者と皆に認められ八咫の名を与えられた。
だが、だからと言って八咫になれなかった黒天の評価が下がるわけではない。黒斗がいなければ、まず間違いなく八咫の名を与えられていただろうと皆が評する。同じ時代に二人の強者が生まれたことは、里の未来を明るく思わせた。
黒天は自分の力に自信を持っていた。馬頭ごときに負けはしないと。里の女達を守るため、馬頭を挑発し一対一の対決を望んだ。
――だが、馬頭がそんな望みを聞き入れる訳がなかった。
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