【第六部】第五十二章 烏天狗達
――札帳平原――
馬頭率いる群れが札帳平原を進む。だが、辺りはすっかり暗くなり、これ以上の行軍は厳しい。
馬頭の合図を皮切りに野営が始まる。野営と呼べる程立派かと問われたら、和国民はまず間違いなく皆首を横にふるだろう。
単にたき火をし、獲物の肉を焼いて食らうのみ。
その肉も、行軍の最中に遭遇したモンスターや動物、妖獣のものだった。
寝る場所も適当だ。馬頭だけは、後城から自分用の天幕を小鬼達に運ばせたが、他の者に対する気遣いなど皆無。皆、のざらしだ。
行軍の先頭部。そこには八咫達烏天狗の姿があった。
◆
他と同じく、烏天狗達もたき火をしていた。そこに、肉をさした串を入れ適当に焼いて食べている。
黒磨が不機嫌さを隠さず不満をもらす。
「マジぃ」
「…………」
隣の八咫は黙々と食べ続ける。いや、八咫だけではない。黒磨以外は不満をもらさず食べ続けていた。
「魔獣の肉なんて食えたもんじゃねぇな」
「仕方無いだろう。これでもマシな方じゃねぇか」
不満をもらし続ける黒磨にイラついたのだろう。黒悠がなだめる。
黒磨の言う通り、烏天狗達はモンスターの肉を食べていた。日中自分達が倒した牙猪の肉だった。
奇しくも、神楽達と同じ猪だった。だが、こちらはモンスター。
モンスターは妖獣同様、魔素により動物が変化した種族だ。当然のごとくその肉体も影響を受けている。
特に、牙猪の肉は硬い。身が引き締まっていると言えば聞こえはいいが、筋ばっていてなかなか噛みきれない。
モンスターだからと一概にくくれることではないが、肉体能力を向上させる進化とはすなわち、肉体の密度を高める傾向がある。
牙猪も例にもれずその肉は硬かった。
「チッ! 俺達だけじゃ、まともに料理もできないしよ」
「おい、それは言うなよ……気が滅入るだろ」
黒磨が思わずこぼした愚痴に、黒悠含め周りが敏感に反応する。
黙々と肉に食らいつく八咫の袖を黒夜が引っ張った。
「お兄ちゃん……お母さんに会いたい」
「黒夜……」
幼い弟が泣きそうな顔で自分を見上げそう訴える。それが、八咫の心をかき乱す。他の烏天狗達は、不満をもらしていた黒磨を含め、皆一様に黙りこんだ。
「兄ちゃんが助ける。母さんも、皆も」
「ほんと?」
不安そうな黒夜の頭を優しくなでる。そんな八咫に、苛立ちを隠さず黒磨がつっかかった。
「こんな状況でどうするってんだ。いくらお前でも、一人であいつらを解放できねぇだろうが。だからこうして、馬野郎にしたがってんだろ」




