【第六部】第五十一章 ねね
――富央城・三の丸・屋敷――
「ふうぅ~……っ♪ まんぷくでござるよぉ」
「ねね。そう言えば、よく任を解かれなかったな。怒られなかったのか?」
大の字に畳に寝っ転がるねねを見ながら、ふと神楽が声をかける。ガバッと勢いよくねねが起き上がった。
「そうでござった! 殿! ヒドいでござるよぉ!!」
「え? ここで泣く?」
「……神楽。めっ!」
「いや、泣かせるつもりじゃ……」
ねねが泣き出してしまった。レインがよしよしと背中を撫でてあげている。やがて、ねねはレインの胸元に顔をうずめた。
「でも、ここにいるってことはなんとかなったんだろ? よかったな」
「あの後、頭領に頭ぐりぐりをされてたいへんだったでござるよ!? ――あぁ。思い出すだけでイタイ……」
どうやら、会議後にまたぐりぐりの刑に処されたようだ。南無三。ねねは痛みを思い出してか、頭を両手で抱えていた。
「見張りは続けるのか?」
「頭領からは、『もういいから、ヤシナッテもらいなさい』ってお役目をいいつかってるでござるよ」
「それ、役目ちゃう。――ま、いっか」
「わ、我が君。そんな簡単なことでは――」
神楽は味噌汁をすする。――うまい! あまり深くは考えていなさそうな神楽に、青姫がおずおずと注意を入れる。
「まぁ、なんとかなるだろ。それに、留城にいた時とたいして変わらないだろ」
「すぐ見つかったでありんすからね……」
稲姫の言う通り、ねねの見張りは留城の屋敷にいた頃からすぐにわかった。腹の虫で。以来、ごはんは一緒に食べている。
流石にマズいと思ったのか、普段は天井裏に隠れて見張りをしていたが。
ねねは孤児だった。父母を戦争で亡くしている。そんなねねを朝霜組頭領の霞が引き取ったという訳だ。
他の組員共々、娘や妹のように可愛がっている。
神楽の見張りにつけたのは、もしかしたら危険性が低いことを早い段階から見抜いていたのかもしれない。先程、霞や組員達を見て神楽はそう考えるようになった。
(まぁ、人手不足って側面も確かにあったんだろうけどな……)
ねねは明るかった。だが、時折、夜中にすすり泣く音が天井裏から聞こえてきた。
まだ幼いのに一人なのだ。寂しいに決まっている。まだ9才の幼女をかりだす和国民に嫌悪感を感じていた。
そんな時は明かりをつけて、ねねを起こした。そして、天井裏からおろし、一緒の布団で寝た。
どんな事情があろうとこんなことは許されない。神楽がねねを受け入れることに抵抗は無かった。
ねねは気立てがよく、仲間達ともすぐに馴染んだ。そうこうしているうちに、会議の場で忍組織の紹介になりそうだったので、神楽は先手を打ってねねとの関係性を周知したのだった。
それは神楽が思っていた以上に受け入れられた。そのことからも、初めから預けるつもりだったのではと神楽は勘ぐっていた。
自分達の退却判断は自分ですると神楽が参戦の条件に加えていたことも理由にあったかもしれない。
――もしもの時は、ねねだけでも連れて逃げて欲しい。
そんな想いが込められているのかもしれない。
(まぁ、実際のところはどうでもいい。――見捨てる気なんて、これっぽっちもないんだから)
皆と笑い合うねねを見てそう思う。
そうして、夜は更けていった。




