【第六部】第五十章 お肉
――富央城・三の丸・屋敷――
「ふぉおおお!? ほんとにお肉でござる!!」
「戦勝祝いもかねてな。昨日は慌ただしかったからな」
「……ねねちゃん。これもあげる。あ~ん」
「あ~ん♪ ……おいしいでござるよぉ!?」
レインがねねに餌付け――いや、あーんで料理を食べさせてあげている。
猪の肉だった。戦時中ということもあり、狩りに出る余裕はあまり無いため肉は貴重だ。
神楽達も普段は節約しているが、今日は特別。富央城奪還祝い――そして、口には出さないがねねの正式な歓迎会として奮発している。
料理したのはラルフ。見た目のゴツさに似合わず、繊細な味付けに定評があり――というか、仲間内で一番料理が上手い。神楽はそう評していた。
特に肉料理は絶品だ。野菜と調和させた料理も得意とし、ラルフさえいれば無人島でも生きていけるんじゃないかと言える程の頼もしさだった。
ねねはほっぺに料理をつめ、足をジタバタとさせて喜びを全力であらわしている。
「これ、ねね。食事中にはしたない」
「今日ぐらいはいいでありんしょう? ほんとに美味しいでありんすよ!」
青姫が軽くねねに注意するが、隣の稲姫がまぁまぁとなだめる。足をジタバタさせてはいないが、稲姫のしっぽは元気よく左右に振れている。
仕方ないなと言うように青姫は笑いながらため息をつき、自らも箸を進めた。
「ワイン飲もうか」
「そうだな、確かまだあっただろ」
「……私も少し欲しい」
エーリッヒ、ラルフ、レインはワインを荷物から取り出して飲み始める。やたら大荷物だと思っていたら、嗜好品は欠かしていなかったようだ。ちゃっかりしている。
「クリスももっと食っていいぞ?」
「うん。美味しいね」
クリスはモグモグと少しずつ食べていた。まだ箸の使い方に慣れないのだろう、その進みは遅い。だが、本人の言う通り美味しそうに食べ続けている。
エーリッヒ達青ノ翼は食に関しての経験値が高く、箸を使ったこともあるようですぐ慣れていた。――実に器用な三人だった。
他愛もない話をしながら食事を進める。皆が笑顔となり、昨日のピリピリ感が嘘のように明るい食卓を囲むのだった。




