【第六部】第四十九章 屋敷に
――富央城・三の丸――
夕方。捕虜収容所を出た神楽達は法明と別れ、屋敷への帰路につく。
「まだまだ問題は山積みだけど、まぁ、思ったよりは上手く回りそうだな」
「ご主人。ご機嫌にゃね?」
「そうか?」
琥珀の指摘通り、神楽の機嫌はよかった。
「やっぱり、法明が変わったからにゃ?」
「あ~……。バレバレか、やっぱ」
和国民の妖獣に対する態度は決して友好的とは言えない。何年も戦争をしてきたのだ、仕方ないところはあるだろう。
だが、神楽としては、人間と妖獣がただただお互いを敵として殺し合うだけの状況には不満を覚えていた。戦争と言う、どうしようもない背景事情には理解を示しつつも、やはり心のどこかでは歩み寄りを求めてしまう。
妖獣との共存を果たしている御使いの一族の一員としては、やはり思うところはあるのだ。
「神楽。水を差したくはないが、油断はするな。あの男は歩み寄りの姿勢を見せたが、他の者達は違う。向けられている視線には気付いておるだろう?」
「――わかってるって……」
蛟が厳しく注意するのは、神楽を心配してだ。神楽にもそれはわかっているので、あえて言い返しはしない。
「ただ……少しでも可能性が見えたら、やっぱ嬉しいんだよ。ただ殺し合うだけの関係なんて、むなしいじゃんか」
心中を吐露する神楽にそれ以上の言葉は帰ってこない。皆、同じ思いなのだ。戦争状態であることをやるせなく思っている。
「――と! 暗い話はここまでだ! 飯だ飯! ねねも腹を空かせて待ってるだろ」
「我が君がバラしてしまったから、もう見張りの役目は解かれてしまったのではないかえ?」
「――――あ」
「そこまで考えてなかったのか?」
「い、いや……確かに?」
青姫と蛟に気付かされる。
――皆からの視線が痛い!
何はともあれと、屋敷に戻った。
◆
――三の丸・屋敷――
「ただいま~」
屋敷につき、神楽は入り口の引き戸をガラガラと音を立て開く。中は暗かった。
(いない、か……)
玄関の土間で靴を脱ぎ、部屋の明かりをともす。
すると――
「ん~~~♪ ごちそうでござるね~……」
部屋の真ん中に布団をしき、気持ちよさそうに眠る幼女――ねねがいた。何か寝言をつぶやいている。明かりが眩しかったのか、コロンと横を向く。
「「「………………」」」
神楽が視線を向けると、青姫と蛟が少し気まずそうだ。
神楽は静かに布団へと近付く。屈みこんで、ねねの耳元に手を当てる。
「晩御飯はお肉」
「お肉でござるか!?」
ねねが跳ね起きた。
「……ぁ」
周りを見回し状況を察したのだろう。顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに布団をかぶる。
「だましうちは酷いでござるよぉ!!」
「いや、ほんとに肉だよ?」
「そ、そうではなくて……」
「いらない? じゃあ、仕方ない。ねねの分は俺達が――」
「いるでござる! いるでござるからそんなごむたいな!!」
ねねが布団からガバッとはねおき、神楽の足元にすがりつく。
「素直でよろしい♪ じゃ、飯にするか」
そうして、皆で夕食の準備を始めるのだった。




