【第六部】第四十六章 クリスは
――富央城・本丸・仮設指令所――
「クリスはそうだな……ここに残ってくれるか? 琥珀のフォローに回ってくれ」
「…………わかった」
神楽からの指示だったが、言われたクリスはたっぷり間を置いての返答だった。表情もどこか不満そう――いや、不安そうだった。
「大丈夫か? 不安なことがあるなら言ってくれ」
「そ、それは――」
神楽が気遣わしげに声をかけるも、クリスは顔を赤くしてモゴモゴと言いよどんでしまう。
――女性陣はピンと来た。だが、誰もフォローしない。“ライバル”に塩を送るつもりは無いのだ。
『神楽と一緒にいたい』。女性陣の目にはクリスの態度はそう映っていたし、実際のところそれは当たっていた。
「何でもいいぞ? なんなら、後で個別に――」
「クリス! 一緒にここを守るにゃ!!」
「……うん。そうしてもらえると心強い」
「じゃな。クリスは強い。術の苦手な琥珀をフォローしてやって欲しいのじゃ」
「そうでありんすね。琥珀ちゃんを助けてあげて欲しいでありんすよ」
皆が一斉にまくし立てる。決して嘘ではないが、『クリスは危険だ』と言うのが、女性陣の共通認識だった。
――危害と言うよりも、色恋の面で。
皆から言われ、クリスはちらりと神楽を見る。
「俺も頼りにしてる。任せたぞ?」
そんな鈍感な神楽に、これ見よがしにため息をついて見せるクリス。
「わかった。――でも、次は一緒に行くから」
皆を見回しそう宣言するクリス。――女性陣の交わす視線間でバチッと火花が散る。
エーリッヒはそんな様子をニコニコと見守っていた。
◆
その後、椿達と作戦の詳細について話し合う神楽達。大まかな方向性は決まった。
軍の陣容についてはまだ詰めきれてはいないが、この後急ぎで椿や法明で固めるとのこと。一旦、椿が場を締める。
「また急な出陣とはなるが、出立は明後日の早朝だ。各自、支度を整えてくれ」




