【第六部】第四十五章 レインの主張②
――富央城・本丸・仮設指令所――
(あれ? なんでこんなことになってるんだっけ?)
神楽は目の前の騒ぎを見ながらそんなことを考えてしまう。
琥珀が留守番を了承してくれた。――よかった、よかった。で終わるはずが、今や琥珀も前言を撤回してしまいそうな流れだ。
「レインだけずるいにゃ!!」
「……適材適所。今回は魔法戦だから。私は飛べるようになったし」
「うぅ~~~! ご主人も言ってやって欲しいにゃ!!」
琥珀に話を振られてしまった。神楽としては答えにくい。
迷っていると、エーリッヒ、ラルフから声が上がる。
「こんなこと初めてだ……。ラルフ……」
「レイン……お前、“本気”か? 死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「……もちろん。でも、死ぬつもりは無い。安心して」
「安心できる訳無いだろう……?」
エーリッヒは頭をガシガシかいて困っている。これも珍しい光景だった。
そんな皆が困り果てた時、青姫から声が上がる。
◆
「――はぁ。レインよ、わらわと一緒におるか?」
「青姫?」
青姫がため息混じりにした提案をエーリッヒがとがめる。青姫はわかっていると言わんばかりに片手を上げて制した。
「レインの言うことにも一理ある。それに、実力の高さもわらわはよう知っとる」
「だからって――」
「不安か? レインがおらぬと」
どこか挑発的な青姫の物言いに、エーリッヒは思わず黙り込んでしまった。ラルフも沈黙している。
「レインも自身でよく考えての意見じゃろ。子供でもない。――そうじゃろ、レイン?」
「……そう。これは、“青ノ翼”のためでもある」
――“ギルドのため”。レインから普段出そうに無い――というより、エーリッヒやラルフは初めて聞いた言葉だった。
普段なら喜ぶべきところだが、この戦時下ではエーリッヒは複雑な想いだ。
ラルフがレインに尋ねた。
「『生きて帰る』って約束できるか?」
「ラルフ?」
「まぁ、聞け。レインの言う通り、俺達はこのままじゃダメだ。強くならないと」
「なら僕らも――」
「俺達には俺達のやるべきことがある。――今回は、“向き不向き”が違って別行動するだけだ。そうは考えられねぇか?」
「………………」
ラルフに諭され、エーリッヒはしばし考え込む。レインはその様子を黙ってジッと見守っていた。
やがて、エーリッヒは青姫に向き直る。
「青姫……頼めるかい?」
「全力を尽くそう。――じゃが、戦場に絶対は無い。それはわかっておろう?」
「うん、わかってる。――レイン。約束。必ず無事に戻ってくること」
「……わかってる」
神楽が口をはさむ間も無く話がまとまってしまった。
――涙目で苦情を訴えてくる琥珀の視線が痛い!
「ま、まぁ、向き不向き……だな」
「……必ず役に立ってみせる」
「うぅ~~~……!! 留守番中にご主人をアッと驚かせるだけの力をつけるにゃ!! 覚えとくにゃ!!」
琥珀も不承不承ながら承諾してくれた。――“納得”とは程遠そうだが。
何はともあれ、レインが馬頭迎撃戦に参戦することが決まった。




