【第六部】第四十四章 レインの主張①
――富央城・本丸・仮設指令所――
琥珀の留守番が決まったところ。それまで黙って事態を見守っていたエーリッヒ達から声が上がる。
「僕らはどうしようか?」
「エーリッヒさん達は、琥珀と一緒にこの城を守っていてもらえますか?」
「そうだね。ここの守備も必要だしね」
「おう。戦で勝っても『帰る場所奪われました』じゃ話になんねぇからな。――レインもそれでいいだろ?」
ラルフからの問いかけは単なる確認によるものだった。
――だが、レインは……。
◆
『……私は、神楽に付いていく』
その言葉が出るとは思わず、場が凍った。その表現がしっくりくるくらい、場を沈黙が支配した。
さしものエーリッヒ達ですら絶句だった。真っ先に気を取り直したエーリッヒがレインに問う。
「いやいや、レイン。らしくないよ? 今、琥珀が涙を飲んで留守番をするって言ったところでしょ? それに――」
「見てみたい」
エーリッヒの発言をレインが力強く遮る。再び場が静まった。レインが不器用ながら自分の想いを紡ぐ。
「この国に来てよくわかった。私……達は弱い。この国の人達よりも。妖獣よりも。……このままじゃダメ。私は、私達は、もっと強くならなくちゃダメ」
それは、奇しくも、エーリッヒとラルフが感じていたことでもあった。一介の兵に遅れを取るとは思っていないが、一線級の者達には遅れを取ると理解しているのだ。
レインはなおも想いを皆に伝える。
「……私は術が得意。特に水と氷が。――それに、<飛行>だって使えるようになった。つい最近だけど」
「いつの間に……」
エーリッヒが驚きの声を上げる。レインは<飛行>を習得していた。これは、風属性の上級魔法で、習得には相性が大きく影響する。
風属性はレインの得意属性ではない。なのに、事も無げにその上級魔法を習得したと言う。
レインの魔法の才は、言わずもがな、同じギルドのエーリッヒやラルフも認識、理解はしている。だが、こればかりは、並々ならぬ努力が無いと成し得ない成果だと言えた。
――実のところ、レインは中つ国にいた頃から<飛行>の習得に励んでいた。というのも、嫉妬したのだ。<宵の明星>のクレハに。
自分よりも優れた魔法の使い手に出会ったのは、実のところあの時が初めてだった。
羽を生やした神楽と空中で追いかけっこをしているクレハを見て嫉妬した。“悔しい”という、今まで感じたことの無い感情がレインに芽生えた瞬間だった。
それを動機にして壁を越えてしまうレインも十分に天才である訳だが、本人にその自覚は無い――と言うよりも、結果にしか興味が無かった。
「……私は必ず役に立つ。立って見せる。――だから、連れて行って?」




