【第六部】第四十三章 琥珀の申し出②
――富央城・本丸・仮設指令所――
蛟に諭され、しゅんとする琥珀。見ていられず、神楽は<護符通信>を使って琥珀に呼びかける。
(琥珀)
(ご主人……)
念で会話する琥珀の声は涙声だった。長く黙り込むと不自然だ。神楽は早速本題に入る。
(琥珀にここに残ってもらいたいのは、妖獣の捕虜達を守って欲しいからでもある)
(捕虜を守る?)
(そうだ。今こうして俺と琥珀だけで通信を繋いでるのは、周りに――和国民に聞かれたくないからだ。俺達が皆で出払うと、捕虜達が殺されないか心配だ)
琥珀をここに残す理由のもう一つだった。神楽は琥珀と二人だけの通信でそれを伝える。
◆
「琥珀よ。我が君と蛟の言う通りじゃ。わらわも其方のことは頼りに――」
琥珀が沈黙してしまい、気まずくなった青姫がフォローを続ける。その間、神楽と琥珀は<護符通信>を続けた。
(頼れるのはお前だけだ。エーリッヒさん達にも協力はあおぐつもりだが――)
(――ご主人は、うちが頼りにゃ?)
(ああ。頼りにしてる。受けてくれるか?)
神楽が当然のようにうなずくと、それに答える琥珀の声の調子は明るかった。
(仕方無いにゃあ……ならうちが守ってみせるにゃ!!)
(頼んだぞ? あ、あと無理はするな? ヤバい時は一人で抱え込もうとするなよ? 俺に連絡――)
◆
「琥珀よ、聞いておるのか!? ふてくされてばかりいないで――」
琥珀が黙り込んでいるのを未だふてくされていると勘違いしたのだろう。青姫が腰に手を当てカンカンに怒っている。
神楽は(あ、ヤバいな――切るぞ?)と慌てて琥珀との<護符通信>を切った。
琥珀はうつむいて青姫の言うことを聞いていたが、ふと顔を上げた。――その顔は口元のニヤケをおさえられず、笑顔だった。
皆――状況を察している蛟以外――が目をパチクリさせる。
「わかったにゃ! お留守番するにゃ!! うちに任せるにゃ!!」
「う、うん? ――ま、まぁ、わかればよい。……よいのか?」
逆に不安になったのだろう。青姫が困ったように神楽を見る。
神楽は力強くうなずいて見せた。
「ああ! 琥珀、留守番頼んだぞ!!」
「お任せにゃ!!♪」
蛟から小さなため息が漏れるのだった。




