【第六部】第四十二章 琥珀の申し出①
――富央城・本丸・仮設指令所――
此度の戦――空香溪谷での馬頭軍迎撃戦――への蛟、神楽、青姫、稲姫の参戦が決まり、神楽が決意をあらたに気を引き締め直しているところ、近くから声が上がった。
――琥珀だった。
「ご主人。うちも――」
「琥珀は病み上がりじゃろう。お主の回復力の高さはよう知っとるが、今回はわらわ達に任せよ」
琥珀はどこか焦ったように自分も参戦をと申し出るが、即座に青姫が却下する。琥珀は助けを求めるように神楽を見た。
その顔は、普段の琥珀に見られぬ程心細げなものだった。
――『うち、もう昔みたいに弱いのは嫌にゃ……! ご主人や皆に置いて行かれたくないにゃ……!!』
昨日の天幕での琥珀の独白が頭をよぎる。神楽は、どう答えるべきか悩みながらも、自分の考えを琥珀に伝えた。
◆
「琥珀。今回は青姫の言う通り、留守番していてくれないか?」
「そんにゃ……」
琥珀は眉をハの字にし、今にも泣き出しそうだ。神楽は慌てて訳を説明する。
「決して、琥珀のことを軽んじてる訳じゃないんだ。今回の戦闘は術主体の攻防になるだろう。相性の問題だ」
「う、うちだって戦えるにゃ!! ご主人達に近寄ってくる奴らを撃退してみせるにゃ!!」
「琥珀が頼もしいのは、俺もよくわかってるつもりだ。近接戦のできる者達だって、ある程度数は必要だろうしな」
「なら……」
「だが今回は、空中戦が出来て強力な術を使える烏天狗達もいるって話だ。そいつらに空を飛ばれながら取り囲まれた時、琥珀に対抗手段はあるか?」
「――な、なんとかするにゃ!!」
(ほんとになんとかしそうではあるんだよな……)
琥珀が決意のこもった目でキッと神楽を見据えるので、神楽も困ってしまう。
昨日、お互いの想いをぶつけ合った。だから琥珀の一緒に来たいという気持ちは痛い程よくわかるのだ。
神楽が返答に困り一瞬黙り込んでしまうと、蛟から声が上がった。
「琥珀よ。汝の力は神楽だけではなく儂らも認めておる。――だがな、汝は神楽のことになると目を曇らせてしまいがちだ」
「――で、でも稲姫ちゃんだって……!」
「琥珀ちゃん……」
琥珀がやぶれかぶれで稲姫を指差し巻き込むと、稲姫は困ったように眉をハの字にする。普段豪快な琥珀に見られない態度から、その必死さがヒシヒシと伝わってくる。
――だが、蛟はうなずかない。
「神楽も言っておっただろう? 今回は術主体の戦場だと。稲姫にはうってつけの舞台だ。――琥珀。汝の力を頼りにする戦場はこの後、きっと来る。それがこの戦でないだけだ。その活躍の場に備えておくのも立派な戦いだ」




