【第六部】第四十章 西の戦力分析③
――富央城・本丸・仮設指令所――
「ふむふむ……強力な風使いねぇ」
「烏天狗に遭遇したものは皆口をそろえて言うから風を得意としているのは間違いないだろう」
「ん? 最初の遭遇以来、不干渉を徹底してるんじゃなかったか?」
「ああ。だが、山中で烏天狗を見かけることもある。狩りに出ていたのだろう。風を操り標的を仕留める様は遠目に何度か目撃されている」
椿の言にうなずく将が何人かいる。実際に遭遇したのかもしれなかった。
「他の能力はわからないのか? 黒い翼があるんだろ? やっぱ飛べるのか?」
「そうだな。飛んでる姿も目撃されている。後はそうだな……錫杖を持っていることが多い」
「あのシャンシャンするやつか」
「直接攻撃用というよりは術の威力を増幅させるためかもしれん。杖の中には、そのような特殊効果を持つものもある」
「へ~」
錫杖についての説明は法明からあった。侍である椿よりも陰陽師である法明の方が詳しいのかもしれない。
「なるほどな……術での遠距離攻撃特化か。加えて翼で飛翔できて機動力もある。やっかいには違いないな」
「ああ。その術の威力も強力だ。陰陽師はともかく、侍は敵に接近してこそその真価を発揮できる。それを遠距離から妨害されてはたまらない」
椿が苦々しげに言う。昨日牛頭やその側近に対して修羅のごとく無双していた椿が言うのだ。説得力があった。
「なるほどなるほど……。じゃあ、迎撃部隊の陣容はよく考えた方がいいだろうな」
「ああ。その通りだ。それをこれから――」
「――よいか? 儂らはこの辺りの地理に詳しくない。敵の迎撃は一体どこで行うつもりなのだ?」
蛟の意見ももっともだった。聞かれた椿はうなずき答える。
「ちょうど今からそれも説明しようと思っていたところだ。敵の迎撃はここより西にある“空香溪谷”で行うつもりだ」




