【第六部】第三十九章 西の戦力分析②
――富央城・本丸・仮設指令所――
「カラステング?」
初めて聞く名称に神楽は首をかしげる。先程聞いた後城の戦力にそのような者はいなかったはずだ。
「ああ。簡単に言うと、烏天狗は強力な神獣だ。――下手すると、いや、遭遇した者達からの情報通りであれば、ほぼ確実に馬頭よりも強い」
「へ? なんでそんな奴らが馬頭の下についてんだ?」
「知らん。私だって知りたい。――ああ! もう! 次から次にやっかいな!」
「落ち着け椿。気持ちは分かるが、大将がイラ立っては周りの者が不安になる。――それにしても、よりによって烏天狗か……」
イラ立つ椿をたしなめる法明だが、その顔は暗い。今にも頭を抱えそうだ。
「そんな強いのか? そいつら」
「我が君。カラス天狗とやらは知らぬが、本州にも天狗はおったぞ。鬼と同等以上に強力な種族じゃった」
「青姫の言う通りだ。烏天狗は北州西の山奥に住んでいる種族でな。和国民が本州から逃げ延び居住域拡大を求め山中を探索していたところ、烏天狗の一体に出くわしたことがある。黒翼を持った人型の神獣でな。――圧倒的な力で追い払われたそうだ」
「向こうはこちらを害する気は無く、ただわずらわしそうに追い払ったそうだ。烏天狗は人里に手出しはせず、山奥に集落を形成してひっそりと暮らしている。以来、見かけてもこちらからの手出しは厳禁にしている。そう言う意味では、互いに不干渉を維持している稀有な種族だな」
青姫に続き、椿と法明が背景事情を説明する。ずいぶんと強力な種族らしいが、人への害意は持っていなかったことが神楽は気にかかる。
「そんな平和的な奴らが、なんだって馬頭なんかの下についてんだ?」
「わからん。だが、これで迎撃難度が上がったのは間違いない」
「そんなか。数は?」
「6体程だそうだ」
「それだけなら――」
「神楽。お前達自身が少数精鋭だからわかるだろう? 圧倒的な力を持った個は、時に戦局すら左右する」
「……だな。すまん」
「わかればいい。わかればいいが……さて、どうしたものか……」
今にも特大なため息をつきそうな椿だが、なんとか自制しているようだ。だが、場の空気は重い。
「その烏天狗とやらの力はどのようなものなのだ?」
それまで黙って話を聞いていた蛟が問いを投げ掛けると、ハッとしたように椿が態度をあらためる。
「そうだな。知っていることを話そう。――皆! こちらには龍族だっているのだ! そう悲観するものではない!」
「いや、お前がそれを言うか」
法明のツッコミに笑いが起き、少しだが場が和んだ。富央城を取り戻せたことで、以前よりも少しばかり皆の余裕も取り戻せているようだ。神楽はそれを感じ取り、人知れず口元をほころばせるのだった。




