【第六部】第三十八章 西の戦力分析①
――富央城・本丸・仮設指令所――
「なるほど……。突出した個体は少ないが数が多い馬頭の率いる群れと、少数精鋭とも言える強力な者達で構成されている四鬼の率いる群れか……。見事に正反対だな」
「ああ。そして、力関係は四鬼の方が上だ。後城の本丸や二の丸に居座っているのは四鬼、外縁部の三の丸に居座っているのは馬頭だからな。大方、馬頭は後城での生活に不満があってこの城が欲しいのだろうよ」
椿から後城の戦力について一通りの説明がなされた。説明の途中、元々後城を守護していた諸将――昨年妖獣達に追い出されこちらに合流した――からも所々フォローがあり、敵の戦力詳細は神楽が思っていた以上につまびらかにされた。
「だが、それなら馬頭が出てきた今、向こう――後城の戦力も低下してるだろ。上手く馬頭の群れを倒せれば――」
「ああ。その通りだ。奴らの力を大幅に削げる。だが、忘れるな。西には裏鬼門がある。鬼月にはそこから鬼共がわんさか出てくるからな」
「後城の戦力と裏鬼門からの戦力を相手取る必要があるって訳か……難儀だな」
「ですが! 鬼月前に敵の戦力を削げるのは好機です。馬頭が単独行動でこちらに攻めて来るのなら、こちらにとっても都合がいいですよね?」
「衛の言う通りだ。南の日城奪還を優先したいところではあるが、馬頭の群れは確実に潰した方がいいだろう」
椿と神楽が話しているところ、衛と法明も入ってきた。二人とも、馬頭への対応を優先した方がいいという意見のようだ。
――そして、椿も。
「ああ。私もそう考えて――」
話の途中で椿が言葉を途切れさせる。
「すまない。暗部からの<護符通信>だ」
そう言って、椿は後ろを向き少し距離を取る。場をつなぐためか、イワナガヒメが前に出た。
「後城は川の中洲に建造された城で、至るところに水路が設けられています。清涼感あふれるキレイなところでして、戦が終わったら神楽様達にも是非見て頂きたいです」
「へー。それは楽しみだな」
そんな他愛もない話をしていた所、椿が戻ってくる。何かあったのは明白で、その表情は険しい。法明が椿に声をかけた。
「また問題か? 何があった?」
「ああ。馬頭の群れを監視させている暗部からの情報だ。――群れの中に、“烏天狗”がいる」




