【第六部】第三十三章 後城
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和国北州西部にある城――後城は、昨年妖獣軍に奪われて以来、鬼や妖獣達の根城と化していた。
後城は留城や富央城とは異なり、広大な河川の中洲に建造された城であり、周囲は水で囲まれている。その河川は後城から見て北北東の海に流れ込む。
城の総面積としては北州五城――中央の富央城、北の留城、南の日城、東の室城、西の後城――の中で最も狭いが、周囲を水で囲まれているため、その攻略難度は上位に位置していた。
特に、城の外側は堀でさらに水深を深くしており、西と東にかけられた橋を通らない場合、陸上歩行生物の城内への侵入は困難を極める。
東西の橋には鎖が設けられており、有事の際は城側に引き上げることが可能となる。
造船技術でもあれば船を造りそれに乗って渡ってくることは可能だが、川と空からの侵入に備え、城の外縁部には迎撃施設が隙無く配備されている。
投石機もあるにはあるが、迎撃は主に矢で行う。 石塀に所々隙間を設け、そこから矢を放つ。理由は単純。折角掘った堀を石や岩で埋めたくないのだ。矢であれば水流で流され残留物も比較的多くない。
それに、妖獣は造船技術をもたなかった。――いや、持とうとしなかった。中には泳いで渡ろうとする者はいたが、船での渡河を試みた者はいなかった。
では何故妖獣軍に攻略されたか。
――それは、後城を奪い取った鬼達の中に、四鬼のうちの一鬼――水鬼がいたことが原因だった。
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水鬼はその名の通り、水を司る鬼だ。それが配下の手勢およそ二百を引き連れ川を潜航してきたのだ。それも、見通しの悪い夜中に。
人界軍は警戒を怠っていた訳ではないが、水路から水鬼達の城内への侵入を許してしまい、西側の橋をおろされてしまった。
それと時を同じくして遠くで待機していた鬼や妖獣達が呼応。橋を通って後城に雪崩れ込んだ。
そして善戦むなしく、戦力規模で劣る人界軍は追い出されるように東側の橋をおろしてそこから中央へと逃げ延びた。
――それが、昨年後城を奪われた戦の帰結だった。
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