【第六部】第三十二章 後城の支配者
――富央城・本丸・仮設指令所――
ねねを連れて忍の一人が部屋を出た。とにかく会議の続きをと椿が話を再開した。
「まぁ、そんな訳で、馬頭の出立を忍が視認して報告を入れてくれたのだ。情報は確かだろう」
「数と構成は?」
「その者も敵に気付かれないよう遠くから確認しているのでな。さすがに全容を把握している訳ではないが、数はおよそ二千とのことだ。牛頭同様、多様な種族の混成部隊だが、中核となるのは馬頭を筆頭に馬鬼や馬の神獣達だな。それと、なぜか小鬼の数がやたら多かったらしい」
椿がそう説明すると、諸将からざわめきが起きる。
「二千……」
「一月前の富央城戦ではそれ程の数はいなかったはずよな?」
「ああ。それに、結構な数を殺した。――なのに、むしろ増えてる?」
「戦力を温存してたとしか。後城には馬頭以外にあいつらもいるだろ。警戒して残してたとか」
話の中に気になる単語が混じっていた。神楽が椿に尋ねる。
「西には馬頭以外にも勢力がいるのか?」
「ああ、いるぞ。隠していたわけではないがな。昨年、裏鬼門から出てきた強力な鬼共――金鬼、風鬼、水鬼、隠形鬼だ。我々は奴らを四鬼と呼んでいる」
◆
椿からの説明をまとめるとこうだ。
昨年の鬼月に裏鬼門が開き、鬼の大群が西に流れ込んだ。当然のごとく人界軍は抗戦したが、中央や東にも戦力を割く必要があったため十分な戦力が無く、やがて数に押し込まれていった。
敵の中には強力な鬼も多数おり、その多くを討ち取りはしたものの、特に強力だった四鬼については倒せていない。
最終的に後城を放棄せざるを得なくなり、生き残りは血路を開き中央の富央城に逃げ延びた。
そして、後城を外から監視させている忍から、四鬼と馬頭が入城して居着いているとの報告が入った。
敵の中にも力関係はあり、馬頭より強い四鬼は本丸と二の丸――中心部に、馬頭は外縁の三の丸に居着いている。
「馬頭が富央城に執着するのは、自分だけの城が欲しいからなのかもしれないな」
椿がそうまとめる。
椿の話の最中、悔しそうに唇をかむ者、憤りを隠さず怒りに顔を歪める者は何人もいた。
(西部にいたのかもな……彼らにとって、まさしく仇敵なんだろう、奴らは)
あまり踏み込んで聞くのもためらわれたが、敵の規模や能力を知ることは重要だ。昨日それで痛い目を見た神楽としては、聞く必要がある。
「知っている範囲でいいから、馬頭と四鬼について能力や兵力を教えてくれ」
「ああ。知っている全てを伝えよう。――と言っても、危険性を考慮し諜報のほとんどは城外から行わせている。今もそうかはわからんがな」
昨日青姫に詰問されたのがこたえたのだろう。椿はそう前置きして神楽達に説明を始めた。




