【第六部】第三十一章 朝霜組と落陽組
――富央城・本丸・仮設指令所――
「み、見苦しいものを見せたようだ。すまない……」
「まったくこの子は! 身内の恥で羞恥を感じたのは初めてよ!!」
「まぁまぁ、霞さん。――はい、ねねちゃん。アメあげる♪」
「おぉ!? 感謝でござるよ姫!!」
「こら! ――ダメ。本当に恥ずかしいわ……」
椿は苦笑い気味で、大人のくノ一――霞は顔を真っ赤にして、そしてイワナガヒメはニコニコとしている。
天井から落っこちて来た幼女――ねねは、霞と同じ忍装束を着ていた。
――というより、実のところ神楽はとっくにねねと知り合っていた。
◆
「というか、神楽。いつから気付いて――いや、知り合っていた?」
「留城の屋敷でな。だって、飯食ってる時に、天井から腹の音が――」
「せ、拙者の恥を広めないで欲しいでござるよ、殿ぉ!?」
「ねね! あんた、『最近ねねの血色がいい」って隊で噂になってると思ったら、見張りどころかご飯をごちそうになってたの!?」
「だから言ったのに、頭領」
「ね~。『絶対買収されてる』って言ったのにね」
「し、仕方無いでしょう!? うちは常に人手不足なんだから!!」
いつの間にか、女の忍――くノ一達がどこからかワラワラと集まってきた。
普段からねねを可愛がっているのだろう。神楽に抱かれたままのねねのほっぺを指先でつんつんし、「や、やめるでござるよぉ!?」とねねがジタバタ暴れる。
ねねはまだ幼い。前に飯を一緒に食べながら神楽が聞いたところ、9歳とのことだ。
「まぁ、そんな訳で知ってたんだよ、俺達は」
「全く……これでは、我々がバカみたいだ……」
椿のぼやきにうなずく将は多かった。
◆
「気を取り直して……紹介しよう。もう知っているかもしれないが、忍組織――朝霜組だ。こちらは、頭領の霞」
「はいは~い♪ よろしくね~」
忍らしくない陽気な返事を返す霞は色香漂う大人のくノ一だった。身体の凹凸がはっきりしてスタイルがよく、キツメの忍装束がそれをさらに際立てている。口元は布で覆っておりわからないが、あらわになっている目などは二重でパッチリしていた。
そんな大人の女性を体現する霞の姿は、年頃の青少年には目の毒だろう。神楽としても、なんとなく直視ははばかられた。
「よ、よろしく……」
「あ、頭領に見とれてますぜ、この少年」
「あらやだ♪ 私もまだまだいけそうね。どう? この後――」
「神楽様。忍組織はもう一つありまして、今は任務で外に出払ってますが、長門が頭領の落陽組もあるのです」
神楽に色目を使おうとする霞だが、イワナガヒメが前に出てシャットアウト。
ねねから話は聞いてはいたが、忍組織はもう一つあるとの説明がなされる。
特色としては、男は長門率いる落陽組、女は霞率いる朝霜組に振り分けられるとのこと。
「なんで男女を分けるんだ?」
「色欲は忍の敵だからね~。任務に生きるのよ、忍は」
「そんなことはない。結婚している忍は多数」
「頭領は――」
「私は仕事に生きてるの!! 男は不要なのよ~~~!?」
どうやら地雷を踏んでしまったようだ。霞が泣き出してしまった。
「ま、まぁ、うん。とにかく、忍部隊が諜報に出てくれていてな。後城付近にも潜伏している者がいて、馬頭の出立についても早々に知ることが出来たという訳だ」
少し疲れた表情をした椿が、少し強引にそうまとめるのだった。




