【第六部】第三十章 馬頭の挙兵 そして――
――富央城・本丸・仮設指令所――
「馬頭が? ――まさか、昨日の今日で流石に早すぎませんか?」
「富央城が山城とは言え、西の後城までの間にも山脈はある。それを抜いても視認できる距離ではない」
「ならば、護符を使って連絡を取っていたのでは?」
「確かに……それならば可能だろう」
「ということは、狸の神獣は馬頭の配下だったと?」
馬頭がここ富央城に向け後城を出立したという話で、諸将が各々意見を交わし合う。
椿は、少し疲れたように手を打ち鳴らすと、皆が黙り込むのを待ってから口を開く。
「護符が敵の手に渡っていたのだ。可能性などいくらでも思い付く。だが、それにばかりかかずらってもおれん。折角取り戻した富央城だ。馬頭などに明け渡していい訳がない」
皆、一様にうなずく。馬頭に限らず、二度と妖獣に明け渡したくないのは、皆同じ思いだろう。
神楽は、ふと気になったので手を上げて発言する。
「なんだ?」
「えっと……。椿はどうやってその情報を入手したんだ? 護符を使っての通信はまぁ、想像がつくけど。――まさか、北州にある各城に部隊をそれぞれ派遣してるのか?」
だとしたら、人員にかなり余裕がありそうではないか。正直、返ってくる答えも想像出来るが、もうさっさと“ケリをつけたくて”神楽はあえて話題に上げた。
椿は法明に目配せする。その目が物言いたげなのは事情を知らない神楽にも筒抜けで、法明が静かにうなずいたことで、椿は口元をほころばせた。――やっと言えるとでも言うように。
そして、椿は神楽に向き直る。
「まずは謝罪させてくれ。お前達に隠していたことがある」
「改まってなんだよ?」
「――実は、うちには暗部なる組織がいてな? お前が知っているかはわからんが、忍だ、要は。それが諜報活動など、裏方の仕事をしてくれているのだ」
「ああ、やっぱりそういうことか」
「何だ、知ってたのか?」
「知ってるも何も……」
神楽はふと、天井を見上げる。皆も追従した。
(もしかしてこいつ……寝てないか?)
何となくそんな気がする。だから、神楽はちょっとからかってみることにする。
口元に手を当て声を張り上げた。
「ねね~~~? ご飯だぞ~~~?」
すると――
「今日のごはんは何でござるか、殿!? ――――ぁ」
ガラッと天井の一部――木の板が動き、そこから幼女が顔を出した。下向きに。重力により短めのポニーテールがだらんと下に垂れ下がった。
今が会議中で、部屋にたくさんの諸将がいることに今気付いたようだ。物凄く気まずそうにしている。
やがて――
「し、失礼したでござるよ……」
顔を赤くし頭を引っ込めようとする。その瞬間、どこからか音も無く大人のくノ一が神楽の横に現れ、幼女に呼び掛ける。
「ねねちゃ~ん……? 降りてらっしゃ~い?」
「と、頭領!? こ、これは違うのでござ――うわっぷ!?」
「危ない!」
動揺した幼女が天井の穴から落っこちてきた。顔を下向きに。
誰かの悲鳴が聞こえるが、神楽が瞬間移動のごとく真下に移動し、神業のごとく上下の向きを入れ換えて抱き抱えた。
「と、殿!! 感謝でござるよ!!」
「まぁ、今のはからかった俺も悪いからな。――だからって、任務中に寝てるのもどうかと思うぞ?」
「ね、寝てはござらぬよ? 少しうたたねを……」
「ね~ね~ちゃ~ん~~~?」
「と、頭領!? ご堪忍をぉ!?」
これまたいつの間にか接近していたくノ一に頭をげんこつで挟まれグリグリされる幼女。
幼女の悲鳴が部屋内にこだました。




