【第六部】第二十八章 富央城奪還の翌日
【鬼月まであと17日】
富央城を奪還した翌日の昼過ぎ。神楽達はイワナガヒメに呼ばれ本丸の仮説指令所に向かっていた。
真夜中は皆寝静まり流石に静かだったものの、早朝から再び騒がしくなっている。皆、城の復興こそが急務だと理解しているのだ。
死体の処理はあらかた済んだようで、今は家屋や防衛設備の修復、増強にとりかかっているようだ。おそるべき手際のよさだった。
神楽達は三の丸にある屋敷から本丸の仮説指令所まで徒歩で向かっているが、やはり中には、稲姫達妖獣をにらむ者達はいた。
琥珀や青姫、蛟は気付かないふりをしてやり過ごしたが、稲姫は人の悪意にふれること自体あまり経験が無いので、心細そうに神楽の服の袖をつかむ。
気付いた神楽は稲姫と手を繋ぎ、にらんでくる人々に軽く目配せするが、スッと目をそらされた。
言いたいことはあるが、お互い暇でもないしというので我慢し目的地へと向かうのだった。
◆
――富央城・本丸・仮設指令所――
仮説指令所の大部屋には既に諸将がつめていた。用向きは作戦会議なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
イワナガヒメは椿や法明と共に何やら話し合っている。三人とも、やけに余裕の無さそうな表情をしている。込み入った話を邪魔してはいけないかと、神楽達は挨拶せず、空いている箇所に皆で座った。
位置的には、イワナガヒメ達のいる上座に対しちょうど真逆。部屋の入り口付近の下座だ。あまりでしゃばりたくもないしというので神楽なりに一応気を使ってだ。もちろん、呼ばれたら前に出るつもりではいるが。
会議が始まるまでまだしばらくは時間がある。神楽達が仲間内で話していると、ふと声をかけられた。
◆
「神楽さん、昨日は大活躍だったらしいですね!」
「衛か……。いや、うん、まぁ……」
衛だった。素直に神楽を称賛しているだけなのだが、応える神楽の歯切れは悪い。あの後青姫に謝り和解はしたが、気まずいことに違いはない。
「? どうかされましたか?」
「いや、こっちの事情だ。――それより、今日の作戦会議の内容はどんなだ?」
「おそらくは南の日城への侵攻作戦かと。――の、はずなのですが、姫様達の様子を見る限り、何かあったみたいですね……」
上座の方で未だ話し込むイワナガヒメ達を見て、衛も神楽と同じ感想を持ったようだ。
「ちょっと行ってきます」
「ああ」
衛はイワナガヒメ達の方に事情を聞きに向かって行く。法明は衛に気付くと、ちょうどよかったと言うように手招きする。やはり、衛は頼られているらしい。
それからしばらくして定刻になると、予定通り会議が始まった。




