【第六部】第二十六章 動向推測②
――和国・北州・日城・天守閣――
「あなたねえ……。それを早く言いなさい?」
「すみません。お伝えるのが遅くなりまして」
大して悪びれてはいなさそうだが、茶々は頭を軽く下げて謝罪する。確かに、炎の壁などは今までに無かったことだと。
「人間共の新術でしょうか?」
「その線も捨てきれないけどね。私達妖獣に近い力だとは思わない? 目的は、敵戦力の分断かしら? ――その炎の壁の継続時間は?」
「報告では半刻もしないうちに消えたと」
「遠くからでもわかる規模の術を半刻もたせるだけでもたいしたものよ。――もしかしたら、向こうに強力な神獣が味方についたのかもね?」
「まさか」
茶々は鼻で笑うが、鈴鹿御前はその可能性について考え込む。
「何も、説得して味方に取り込むことだけが手段じゃないわ。何らかの術で妖獣を支配、使役する術を開発したのかも?」
「下衆な人間共なら確かにやりかねませんね……」
「<式神>って言うやっかいなモノを使役してる訳だし、無愛想なあの男がまたやらかしてるのかしら……?」
鈴鹿御前の言う“無愛想な男”とは法明のことである。何度か戦場で相見えたことはあるが、まともに相対してはやっかいと鈴鹿御前も直接対決は避けていた。
調べていくうちに、その男こそが敵の大将の一人だとわかった。鈴鹿御前はさもあらんと納得したものだ。
同じく椿も警戒してはいるのだが、あちらは刀での近接戦が主体だ。今は直接関係無さそうなので触れずにおく。
「わかりかねますが……。調査の者を入れましょうか?」
「それはやめておきましょう。潜入させていたあなたの一族が残らず殺されたからには、<変化>を見破る術は向こうにあるのでしょう。だけど、“協力者”と“蒼い壁”。あまりに不気味な不確定要素ね。さて、どうしたものかしら……」




