【第六部】第二十五章 動向推測①
――和国・北州・日城・天守閣――
「ここにですか? 確かに考えられますが、鬼月も間近に迫った今、先に鬼門と裏鬼門を閉じに行くのではないでしょうか?」
「そうね~。その可能性も確かにあるわ。でも、それには幾つも障害があるの。 何かわかる?」
「門付近に鬼共が多いことでしょうか?」
「それが一つ。他には?」
「――すみません。すぐには思い付きません……」
ここ日城に人間共が攻めに来ると鈴鹿御前は言うが、茶々は首を傾げる。過去に何度か攻め込まれたが、その度に撃退したのだ。容易に攻め落とせるなど、流石に人間側も考えていないと思ったのだ。
鈴鹿御前は知略に長けるが、茶々はさっぱりだ。いつもこうして、鈴鹿御前から教育を受けている。
向き不向きはあるとは言え、少しでも多く学び主の役に立ちたいという向上心は茶々にもあった。その前向きさ、健気さを気に入り、鈴鹿御前は茶々を側仕えさせていた。
茶々は素直なので、鈴鹿御前としても教えること自体に抵抗は感じていない。むしろ楽しんですらいた。
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「追い詰められた時程、行動原理は単純化するものよ? 向こうの立場で考えてみなさいな。鬼月になるまでもう猶予はない。優先順位の高い事柄は何かしら?」
「防備の強化……それと、敵増援の防止でしょうか? ですが、鬼門や裏鬼門を押さえることも増援防止にはなるかと」
「そうね。“確実”にできるならね? その方法を向こうが確立しているかは怪しいわね。向こうにとってあれらの門は、“敵にいつの間にかしかけられたもの”なの。仮に何らかの方法で無効化したところで、また新しい門が開く可能性を考えるものではなくて?」
茶々はふむふむとうなずく。確かに一理あると。そして、鈴鹿御前の言わんとしていたことを正しく読み取る。
「なるほど……。得体の知れない門よりも、確実にそこにある日城と大橋を押さえた方がいいということですか。城や橋は人間達が造ったものですしね」
「そういうこと。“確実に堅実に有利な状況を築く”。余裕が無い時程、そういう思考になりやすいわ。後は、門を閉じに東西へ出兵している隙に私が攻め込む危険性も考えてるかもね。鬼が多い東西は、ただ鬼月を待てば有利になるから今攻め込みはしないだろうしね」
なるほどと茶々も納得する。だが、今までに何度か撃退している。懲りずにまた攻めてくるだろうか? という疑問は残る。
「命知らずな奴らですね。また痛い目をみたいのでしょうか?」
「どうかしらね? 富央城に潜ませていたあなたの一族が皆殺しにされたからには、<幻術>への対抗手段は見出だしたのでしょうし……。ぁ、ちょっと無神経だったかしら?」
「いえ、おっしゃる通りなので……。確かに、油断はできませんね」
「それと、向こうの“協力者”が不気味だわぁ」
「すみません、情報不足で……」
「責めてる訳じゃないけどね。だけど、もう少し情報は無いかしら? 協力者に限定しなくてもいいわ。何かいつもと違う報告は入ってない?」
「そう言えば……」
茶々は、天守閣を取り囲んだ蒼い炎の壁についての報告を思い出し、鈴鹿御前に伝えるのだった。




