【第六部】第二十四章 鈴鹿御前と茶々
――和国・北州・日城・天守閣――
「鈴鹿様」
「お入りなさいな」
「はい、失礼します」
日城天守閣は6階の造りだった。その最上階に住むは鈴鹿御前その人だ。
今、その部屋に雌狸の神獣が一体、報告に来ていた。鈴鹿御前の許可が出たので、神獣は慣れた手つきで襖を開け中に入る。
鈴鹿御前が居着いてからというもの、部屋の内装は大幅に手を加えられた。
――豪華一辺倒に。
数ある金品の中から鈴鹿御前自身で選び抜いた特級品が、美術館の如く台座の上や壁に飾られている。
それでいて、住環境は損なっていない。食事や睡眠、娯楽など、全てをこの部屋で満喫できるように。それでいて狭苦しさを感じないよう、鈴鹿御前直々の工夫により見事な調和をもって実現していた。
その狸の神獣は鈴鹿御前が本州にいた頃からの腹心であり、鈴鹿御前に目をかけられて一族の代表として側仕えをしていた。名を“茶々”と言う。
茶々は飾られている刀剣の鞘を布で拭い手入れをしている鈴鹿御前に近付くと、静かに片膝をついた。
◆
「それで? 何かあったのかしら?」
「はい。富央城が人間共に攻め込まれ陥落。牛頭をはじめ、群れのほとんどが殺されました」
「あらら……。まぁ、頭の中まで筋肉で出来てそうな牛頭だものね。ヤられてもおかしくはないわね。でも、人間もまだあがくつもりなのね。――ほんとにしぶといわぁ」
鈴鹿御前は刀剣を磨き終えると満足げにうなずき、後ろに振り返って足元に跪く茶々を見た。
「“ほとんど”って言ったわね? いくらかは逃げたのかしら?」
「いえ、百体程は投降し、人間共の捕虜となりました」
「捕虜? 殺さずに? あの蛮族共が? そっちの方が驚きだわぁ」
心底驚いたと言うように、鈴鹿御前は口元を手で覆い目を見開いて大げさに驚いてみせる。実際に驚いてはいるのだが。
「どんな心境の変化なのかしらねぇ?」
「どうやら人間側に“協力者”がいるようです。その者の要望らしく」
「ええ~~~!? なにそれ、どんなやつ? 人間よね?」
「確認には至ってませんが、流石に人間かと」
「ダメよぉ? 勝手に決めつけちゃ。情報は正確に……ね?」
「――失礼しました。しかし、調べようにも富央城に潜入させていた一族の手の者は、残らず殺されてしまい……」
「あら……それは気の毒なことをしたわね。よっぽど厳重な包囲だったのかしら」
「左様で。死ぬ前にこの情報を私に伝えるのが精一杯のようでした」
茶々は淡々と話すが、長い付き合いの鈴鹿御前には茶々が落ち込んでいるのがありありとわかった。
かがみこんで茶々を自身の胸元に抱き寄せ頭をなでる。
「よしよし……」
「鈴鹿様!? な、慰めは不要です!!」
茶々は子供扱いされたことが恥ずかしく顔を赤くして鈴鹿御前から離れる。鈴鹿御前も「あら、残念」と大人しく引き下がった。立ち上がり、アゴに手を当てて言う。
「でも厄介なことになったわね~。次はここを攻めに来るわよ?」




