【第六部】第二十三章 日城の鈴鹿御前
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――日城。
和国北州の南に位置する城であり、平地に広く構えた城だった。
北州南端にある本州連絡大橋と近い位置に建造されたこの城はかつて人界軍が所有しており、大橋を通り北州に入り込もうとする妖獣達を防ぎ止めるための要衝だった。
三年前、大橋を通り一体の鬼が妖獣の大群を引き連れ北州に渡ってきた。椿が女型の鬼と呼ぶところの鈴鹿御前である。
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四年前、戦争が始まってすぐ本州からたくさんの人間が北州に流れ込んだ。本州よりも比較的妖獣の勢力が弱い北州に逃げてきたのだ。
それまで北州に住んでいた妖獣を排逐し、人々は北州全体に散らばり村落を形成した。
その間も大橋を通ってくる妖獣達はいたが、警戒を厳にしていたことと、脅威と呼べる程厄介な妖獣の数が少なかったため、撃退に問題は無かった。
だが、鈴鹿御前は強力な鬼であり、引き連れる配下も他の妖獣とは一線を画す者達ばかりだった。
三年前、それらが鈴鹿御前の指揮のもと、大群で日城に襲いかかってきたのだ。
それも、内部に工作員を紛れ込ませての策略込みで。
当時、順調に妖獣を撃退出来ていたことによる油断や驕りもあったのだろう。人界軍はまんまと鈴鹿御前の策にはまり、敗北し、日城を追い出された。
そして、以来、鈴鹿御前は日城に居着いている。
日城を取り戻すため、それから何度か人界軍は大規模な派兵を行った。
だが、そのことごとくは撃退され失敗に終わる。
鈴鹿御前は鬼としての力だけでなく知略にも優れ、人界軍の進軍路に罠をしかけたり、<幻術>による同士討ちなども引き起こした。
以来、人界軍は対策は練れど、二年前北東に鬼門が、昨年南西に裏鬼門が開き鬼達がワラワラと出てきたことで、そちらへの対応を余儀なくされた。
その間、鈴鹿御前は日城にこもり、牛頭や馬頭から富央城襲撃の協力要請を受けた時以外は我関せずを貫き、外部への軍事干渉を断つのだった。
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