【第六部】第二十一章 黄昏の世界にて①
――黄昏の世界――
昼でも夜でもない黄昏時。橙色に発光する広葉樹が周囲に咲く色とりどりの草花を照らし出す。
そんな幻想的な光景ももう慣れたもの。
神楽は、またソフィアに会いに来ていた。
ソフィアの持つ、向こうの世界とここ――黄昏の世界――を行き来する力――<世界渡り>とでも言うべき力を<神託法>で使い、ソフィアと同じく精神体で渡ってきていた。
力を使えるようになってからというもの、神楽は夜寝ている時、こうして頻繁にソフィアに会いに来ていた。
なので、この光景ももう慣れたものなのだ。
いつものように、ソフィアがいるだろう広葉樹へと歩を進める。
◆
「カグラ!!」
「元気だったか? ――って、精神体に聞くのもおかしな話か」
神楽を見つけて満面の笑みで駆け寄り飛び付いてくるソフィアを優しく抱き止めると、神楽も軽く抱きしめ返す。
頻繁に来ているとは言っても、神楽にも休養は必要だ。毎日来れる訳ではないし、少しして帰りそのまま寝ることは多い。
そのため、ソフィアが望むまま、しばらく抱きつかれるのは毎度のことと化していた。
「あ~……。カグラ分が補給される~♪」
「なんだよそれ」
「必須栄養素。あたしにとっての。無くなったら死ぬかもしれない」
「はいはい」
むにゃむにゃと幸せそうなニヘラ顔で抱きつくソフィアを見ると神楽としても嬉しいので、しばしそのままに。
やがて満足したのか、ソフィアは離れる。
「それで、今、向こうはどんな感じ?」
「それなんだが――」
そう。ソフィアには、和国の人界軍を手助けするため参戦することは伝えていた。
当初、困っている和国民の話をソフィアに伝えたところ――
◆
『あたしのことは気にせず、その人達を助けてあげて』
『いや、でもソフィアだって危ない状況だろ』
『それがね? 今は大丈夫なの』
『? すまん、意味が』
『帝都に戻って来たからね、バージニアがあたしを守ってくれてるのよ!』
『バージニア?』
神楽がソフィアに話を詳しく聞いたところ、昔、クリスの時と同様、力に悩んでいた少女――バージニアに<世界渡り>の能力を使って更なる力を引き出してあげたそうだ。
『そしたらそれが凄い力でね!? あの子、元々強かったんだけど、あっと言う間に帝国最強の騎士になっちゃって!』
『お、おぅ……。俺としては、敵になるかもしれない帝国の人間が強くなるのは笑えないんだが……』
『でも、そのおかげで仲良くなって、今こうしてあたしを守ってくれてるし、バージニアは悪い子じゃないよ?』
『そうだな。今は、ソフィアの身の安全が守られていることを喜ぼう……』
クリスを凶悪な“爆発魔”にしたソフィアは、またしてもとんでもない怪物を生み出していたようだ。
ソフィアは天然みがあるので全く気にした風はないが、神楽としては強敵になるかもしれない存在に背筋が凍る思いだ。
しかし、ソフィアの言う通り、それでソフィアの身の安全が確保されているというのは喜ばしいことに違いない。
『だからあたしのことは気にしないで――って言っても、その人達が大丈夫になったら、あたしを助けに来てくれる?』
『当たり前だろ? その帝国最強の騎士が守ってくれているとは言え、いつ博士が暴走するかはわからない。必ず助けに行くよ』
少し不安げに聞いてくるソフィアの頭を優しくなでつつ、神楽は先に和国の戦争問題への介入を決めたのだった。




