【第六部】第二十章 富央城奪還戦後報告会⑤
――富央城・本丸・仮設指令所――
「……ん? ただの護符ではないか」
「それがどうかしたのか?」
陰陽師の将は皆に見えるよう、その護符をかかげて見せる。顔は真剣そのものだった。
「はい。ただの護符です。ただし、敵――神獣が使っていた護符です」
その発言に一瞬、沈黙が降りる。だが、直ぐ様ヒートアップした。
「どういうことだ? 敵に護符を奪われたのか?」
「いや、使用には“呪文”が必要だ。誰かが入れ知恵をしなければ使えん」
「我が軍に裏切り者がいるとでもいうつもりか!?」
諸将の混乱はもっともだろう。今までこんなことはなかった。
「お静かに! ――まずは、状況報告を聞きましょう」
「どのような神獣が使ったのだ?」
騒がしい場をイワナガヒメがおさめ、法明がその将に状況を尋ねる。
「人化していたため名言はできませんが、耳などの外見的特徴から狸の神獣ではないかと」
「ふむ……狸か。捕虜の中にはいなさそうだったが……他に、狸と交戦した部隊はいるか?」
ここには諸将全てが集っている訳ではない。精々が二十人程だ。他の者達のほとんどは、城の復旧指揮などに当たっていた。
そんな二十人程度の諸将のうち、法明の問いに手を上げたのは二名。
「交戦はしましたが、数は一体でした。こちらも神獣でしたが、護符の使用はありませんでした」
「こちらも同じです」
数はそれ程でもないようだ。
(しかし、狸だけで部隊を形成せず、バラけているというのが気にかかるな……)
報告を受け考え込む法明だが、別の陰陽師の将から疑問の声が上がる。
「始末したのであろう? 死体に護符は無かったのか?」
「はい。着物の内側に三枚程護符を確認しました。今、隊の者が検分に当たってます」
「こちらは、特にあらためはせず他の妖獣と同じく処理を……」
「何分、妖獣の死体は数が膨大ですので。それに、妖獣が護符を持っているなど初耳でしたので……」
護符を発見し報告している将以外は、死体をあらためずに処理――焼却処分してしまったようだ。
法明はため息を隠せない。
「まだ処理していない神獣の死体があれば、急ぎあらためさせろ。狸かどうかは問わずだ。全隊に指示を出せ」
「――は、はっ!!」
「はっ!」
「ただちに!」
法明の指示を受け、陰陽師、侍関わらず、慌ただしく動き出す。もう会議どころではなくなっていた。
「法明……」
「心配はご無用です姫様。まずは、敵にどれだけ我々の力が流れているかを確認しましょう。――捕虜からも話を聞く必要がありそうです」
イワナガヒメを不安にさせないよう気遣う法明だったが、その表情は険しさを隠しきれずにいた。(やっかいなことになった)と、人知れず頭を悩ますのだった。




