【第六部】第十九章 富央城奪還戦後報告会④
――富央城・本丸・仮設指令所――
「それも一つの方法かもしれませんね」
「姫様まで!?」
法明だけでなくイワナガヒメまで妖獣との融和を――例え可能性レベルとは言え――認めるのかと、流石に黙ってはおれず、諸将の一部から不満の声が上がる。
「今まで我々が奴らにどれ程の苦渋をなめさせられてきたか、それがわからぬお二人ではないでしょう!?」
「奴らを許すなど、我々を守り死んでいった者達にあの世で顔向けできません」
その意見にうなずく者は多い。だが、イワナガヒメとしても前々より考えていることはあった。
「妖獣全てを敵に回すと言うのは、この和国において、人間以外の生物全てを敵に回すようなものではないでしょうか? 仮に妖獣を全て排除できたとして、まだ妖獣になっていない動物がいずれは妖獣になるかもしれません。その度に殺すのですか? ――この地に人間だけとなれば、食すらままなりませんよ?」
「中つ国に援助を頼むというのは……」
「それこそ愚かな考えです。外国を頼るのであれば、とっくに頼っておくべきでしょう。自分達の手で自立した居場所を守るためにこそ、これだけ多くの血を流してきたのでしょう?」
イワナガヒメの語る未来は、この戦争に勝ったとして待ち受けるものだということはわかる。――だが、その解決には、別の方向性もある。
「“管理”しかないのではないですかな? 動物を飼育管理し、少しでも妖獣になる気配があれば“処分”する。その方が確実で危険性は低い」
「そうです! 獣と人間の立ち位置を狂わせてはいけません。我々は――」
「おそらくですが、そのような相手を見下した態度、思想こそが対話の道を閉ざしたのでしょうね。――そして、妖獣達は力を得たことで、そんなわたくし達を排斥しようとしている。今がまさしくそうではありませんか?」
――共生か管理か。正解など、この場にいる誰にもわかりようはなかった。ただ、実際に共生を実現している神楽のような実例は存在する。
だが、いつまでも答えの出ない問題にかかずらってはいられない。イワナガヒメはまとめにかかる。
「神楽様達のように仲良く生きられたら楽しいのでしょうね。戦争の真っ只中では夢物語のように感じてしまいますが。――今すぐにとは言いません。あなた達も、そういう選択肢はあるのだと、一度ゆっくり考えてみてください」
「話を脱線させてしまい申し訳ありません。――会議を進めてください」
言いたいことを言い切れていない将は不満顔を隠せずにいるが、イワナガヒメと法明がそう締めくくってしまったので蒸し返すのには抵抗があった。
そして、会議は再開される。
「実は、一つ重要な報告がございます」
そう声を上げたのは、それまで報告を読み上げていた侍の将ではなく、法明と同じ狩衣を着た陰陽師の将だった。
どことなく顔色が悪い。
「これを……」
皆が注目する中、そう言って懐から取り出して見せたのは、一枚の護符だった。




