【第六部】第十五章 仮設指令所
――富央城・本丸・仮設指令所――
北州北北西にある留城同様、富央城にも天守閣はある。富央城は中央に要衝として建造されているため、他の城より天守閣も立派だった。
だが、牛頭を筆頭とした妖獣の精鋭達と椿、神楽達の激しい戦闘により、どこもかしこも血だらけ、傷だらけという有り様であり、イワナガヒメやコノハナサクヤヒメを招くことははばかられた。
そのため、本丸内で比較的大きく損害の少ない場所を仮設の指令所とし、急ぎ清掃しイワナガヒメを招き入れた。
今は戦後の事後処理のため、寝る間を惜しんでイワナガヒメや諸将が集っていた。
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「皆、よくぞこの城を取り戻してくれました。心より感謝いたします」
出だし、イワナガヒメが畳に三つ指をつき、諸将に頭を下げる。一気に場が混乱に陥った。
「姫様おやめください!!」
「自分達のためでもあるのです!!」
「そうです姫様。これは皆の問題です。姫様だけが背負っている訳ではありません」
最後の言は法明だった。捕虜の扱いで捕虜収容所まで神楽達に付き添った後、その足で指令所に来たのだ。
法明が部屋に入る頃にはちょうど会議仕度が整えられたところであり、法明が畳に膝をつくと同時、直ぐ様会議が始まった。
その冒頭がこれである。法明は忙しさから来る疲れをひた隠し、イワナガヒメに先を促す。
「そうですね。ごめんなさい、ちょっと感極まってしまって」
「姫様の喜びは我々の喜びでもあります。ですが、今は戦後の状況確認を急ぎましょう。軍備を整えて直ぐに南の日城へ出立する必要がありますから」
法明の言い分は諸将も共有するところだった。うなずく者がほとんどだ。
富央城を首尾よく奪還出来たとは言え、これは反撃作戦の取っ掛かりに過ぎない。戦はまだまだ続くのだから。
一昨日行われた作戦会議通り、鬼月までに少なくとも南の日城を奪還し、本州からの増援をたつため本州連絡大橋を手中におさめる必要があった。
イワナガヒメも法明の意見に顔を上げ、気を引き締め直すように背筋を伸ばすと、力強くうなずき返した。
「法明の言う通りですね。ごめんなさい。――では、まずは此度の戦果、被害報告をお願いします」
そうして、会議は本題に進む。




