【第六部】第十四章 捕虜の扱い④
――富央城・三の丸・捕虜収容所――
なおも神楽が言い返そうとしたところ、今まで黙っていた法明から声がかかる。
「もうよいだろう? こちらが妖獣に対し恨みがあるように、妖獣にもあるだろう。お互いに譲れないものがあるから戦争をしているのだ。これ以上は平行線だろう」
法明も忙しい身だ。陰陽師部隊のトップであり、此度の戦の事後報告を聞いたり次の作戦もあるだろう。
ここに来たのは、捕虜の処遇をどうするか、神楽の判断を確かめるためだ。
余計なトラブルを起こさないよう、問題があるなら口を出して止めるために来ていた。要は、お目付け役だ。
重要な事案ゆえ、自ら立ち会うと申し出て一緒に来たのだ。
だが、そんな事情は妖獣達にとってはどうでもいいことであり、その言い草が反感を買った。神楽と口論していた神獣が、口元を皮肉げに歪めた。
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「その者の言う通りじゃな。不毛極まりなかった。お前達人間はわしらを獣畜生と見下すが、わしらから見たらお前達人間はそれ以下じゃ。お前の決定には従うから、この後わしらはどうすればいいかを早う言え」
こうなってしまってはどうしようもない。神楽としても言いたいことはまだまだあれど、皆の態度が気に入らなくても、事を前に進めるほかない。
その後は、淡々と話を進める。
この戦が終わるまで、窮屈だとは思うが、ここでまとまって暮らしてくれ。不便なことがあったら自分に伝えてくれ、出来る限り解決するように動くから。などなど。
神楽が一通り話すと、口論していた神獣をはじめ妖獣達が戸惑いを見せる。その態度は、先程までよりも明らかに軟化していた。だが、どういう態度を取っていいか決めあぐねているようだった。
「――なぜだ?」
「ん?」
口論していた神獣は、神楽の眼をまっすぐに見て尋ねる。嘘は見逃さないとでも言うように。――神楽が何を考えているのか興味があるとでも言うように。
「わしは、ずいぶんとお主に怒りをぶつけた。そうしなければ気がすまなかったし、それが間違っていたとは思わん」
「そうか」
神楽としてはうなずく他ない。
「じゃが、お主はそうまで言われて、なぜこうもわしらに親身に接する? ――なぜ、進んでわしらの世話を焼こうとする?」
それは純粋な疑問なのだろう。他の妖獣達も戸惑ったように、神楽を見つめていた。
だが、神楽としては、当たり前のこと過ぎて逆に疑問だった。
「俺は妖獣と共に暮らす一族で他所から来たって言っただろ? お前達に直接的な恨みがあるわけじゃない」
「それは、そうじゃが……」
「お互いに思うところをぶつけ合っただけだろ。こんなの、人間同士だってある。“対等な関係”なら当たり前だ」
神楽がそこまで言うと、場が静寂に満たされた。
「――――ん? 俺、何か変なこと言ったか?」
神楽は違和感に気付き、思わず周りを見回すが――
「もうわかったか? ――これが、“神楽”だ。汝らも言い分はあろうが、いくらなんでもやり過ぎだ。人間を滅ぼす以外にも共生という生き方はある。移住は中つ国に相談すると神楽も言っている。交渉はこれからだが、神楽は決して汝らを見捨てはしないだろう。――汝らが態度を頑なにしない限りはな」
蛟がそう語りかけると、妖獣達は蛟に注目する。
「お主は龍族か……? それ程強大な存在で、本当に人間と共生しているとでも言うのか?」
「力の強さなど関係ない。共に生きるのに、特別な理由など要らん。――汝らは難しく考え過ぎているのだ。これから、少しずつでもお互いに理解を深めていけばよい」
蛟がフォローしてくれたことで、妖獣達は戸惑いながらもそれ以上の口論は持ち上げなかった。
そうして、話がなんとかまとまり、神楽達は詳細をもう少し詰めると、皆を引き連れその場を後にするのだった。




