【第六部】第十二章 捕虜の扱い②
――富央城・三の丸・捕虜収容所――
「あんたが“協力者”か?」
「は?」
神楽が妖獣の捕虜達に対して口火を切ると、一人の神獣――人化している――から声が上がった。
その神獣は、犬に近い耳や尻尾を持っており、また、だいぶ歳を重ねているようで、人化している見た目は老人男性のものだった。
一瞬、何を聞かれているのかわからず、神楽は出鼻をくじかれる。
「この城を攻めた者達は、降伏したわしらを受け入れず、皆殺しにしようとした。じゃが、協力者なる者が捕虜を殺さんよう彼らと約束していたから、身をはってわしらを守ってくれた者達がいたのじゃ」
「ああ、なるほど。そういうことか。確かに、それは俺だ」
犬らしき神獣の言わんとしていることが神楽にもようやく理解できた。法明から聞いていた通り、かなりまずい状況だったと再認識し、心中で小さく嘆息した。
「わしらを助けてくれたことには感謝しよう。――じゃが、何が目的じゃ? そこに控える神獣達のように、わしらをしもべに加える気か?」
その神獣は、神楽の後ろに立つ琥珀達を見回しながら言うが、大切な仲間をしもべ呼ばわりされた神楽としては、気に入らない。
「皆、俺の仲間だ。いきなり失礼じゃないか? 俺に対しても、仲間に対しても」
「馬鹿を言うな。つい先程、わしらを皆殺しにしようとしたお前達が、どの口でそんな戯言をほざくか」
「俺や仲間は、和国出身だがついこの前まで西の大陸にいて、訳あってここ北州に流れ着いた。彼らの助っ人のようなものだ。お前自身が俺を彼らの“協力者”だと言っていただろう? その通りの存在だよ」
イラつきながらも、ここでキレては元も子もないと、神楽はなんとか自制する。実のところ、だいぶうんざりしていた。
戦争中だから仕方ないとは言え、人間と妖獣がこれ程までにお互いを憎悪し合い、共存の可能性など端から切り捨てていることに。
それは、この神獣だけでなく、人界軍にもだ。
「気にさわったのなら、すまなかった。わしらの命はお前に委ねられているそうじゃからな。不必要に怒らせる気はない。――じゃが、ならなぜわしらを助けた? わしらを利用するためではないのか?」
一応は謝罪の形を取る神獣だが、その態度は神楽に対する疑念を全く隠そうともしていない。それは、その神獣だけでなく、他の妖獣達もだった。
野次こそ飛ばさないものの、皆、うさんくさい者を見る目で神楽を見つめ、その言葉を待っている。
「はぁ~~~~~っ……」
神楽はこれみよがしに大きなため息をついてみせた。そして、妖獣達を見回して少し大きめの声でよく通るように語りかけた。
「俺は、妖獣と共に暮らす一族の者だ。お前達は信じられないだろうが、そういう者達もいる。お前達を助けたのは、降伏した者達まで皆殺しにするのはおかしいと思ったからだ。この北州での戦いが終わったら、お前達には他所に移住してもらうことを考えてる。それまで、こちらの指示に従い大人しくしていてくれさえすればいい」




