【第六部】第十一章 捕虜の扱い①
――富央城・三の丸・捕虜収容所――
神楽達は、法明に連れられ、三の丸にある捕虜収容所に来ていた。
捕虜収容所とは言うが、牢屋などではなく、使われていない兵舍を仮の収容所としてあてがっているようだ。
法明曰く、捕虜にきちんとした住環境まで与えているのはイワナガヒメの神楽に向けた配慮とのことだ。
和国民の妖獣に対する恨みは根深く、止めなければここに収容されている捕虜達は皆殺しにされていただろうということも聞かされ、神楽は自分のフォローが甘かったことを反省する。
「すまない……恩に着る」
「それが参戦してもらうための条件だったからな。――それよりも、これからどうするかが問題だ。とにかく、中に入るか……」
法明はまわりに気付かれない程度に小さくため息をつくと、収容所の中に足を踏み入れた。
◆
兵舍として使われていただけあって、中はそれなりの広さだった。
他の施設同様、床も壁も木製であり、手入れがされていないからか、床もだいぶ傷んでいるようだった。
しばらく歩くと、やがて、武器を携えた見張り二人が立つふすまにたどり着いた。どうやらこの中に捕虜達がいるらしい。
「見張り、ご苦労」
「「はっ!!」」
法明がねぎらいの言葉をかけると、見張りは敬礼した後、ふすまを開ける。中からは大勢の気配がする。だが、息を殺すように沈黙を保っており、不気味さを醸し出している。
法明が先に中に入り、神楽達も後に続く。最後に、見張りの一人も中に入ってきた。――警戒しているのだろう。皆が入り終えると、外からふすまが閉められた。
部屋の中を見回すと、なかなかの大部屋だった。その中は、すし詰めとまではいかないまでも、大勢の妖獣でごった返している。
見たところ、様々な種族がいる。――鬼は……どうやらいないようだ。
皆、部屋に入ってきた神楽達を怯え戸惑いながら見つめているのがわかる。中には、子供を抱き抱えながら、声を上げないよう口を手でふさぐ女の神獣もいた。
目算でおよそ百ぐらいだろうか。
静寂が支配する中、法明が口火を切る。
「お前達の命の恩人とも言える者を連れてきた。この者にお前達の扱いを委ねてある。――神楽」
「ああ」
法明に促され、神楽は前に出る。大勢に注目される中、神楽は意を決して妖獣達に名乗りを上げる。
「俺の名は神楽。捕虜となったお前達のこれからについて話し合いたい」




