【第六部】第九章 エーリッヒの目論見①
――富央城・三の丸・屋敷――
「レインは天然なところがあるし、神楽や青姫が決めたことなら一も二もなく助けるのは、まぁ、わかってたが……お前は違うだろ? いつも、俺達が道を間違えないよう、リスクとメリットを考えて判断してくれてるからな」
「なんかこそばゆいな……」
「そんなお前が、他国で起きてる戦争に介入するのをよしとするのが意外でな……乗り気だった俺が言うのもなんだが」
「意外、か……まぁ、そうかもね」
エーリッヒはラルフの意見を肯定しつつ、どう話すべきか、アゴに手を当て考え込む。
数瞬後、ラルフに問いかけた。
「ラルフは、この国の人達のこと、どう思う?」
「あ?」
「まずは戦闘力。――強いと思わない? この国の人達」
「確かにな。護符なんて、ズル過ぎるくらい便利だろ? あんな、“誰でも簡単に使えるアーティファクト”みたいなもん、大量に持ってるなんて聞いてねぇぞ」
「だよね! いやぁ、助っ人として二人で前線に顔を出したのは正解だったね」
エーリッヒとラルフは、自発的に本陣後方を離れ、人界軍の支援に行っていた。
単純に手助けするのが主目的ではあったが、人界軍や獣界軍の戦力視察というのも目的だった。
人界軍は強く、手助けは要らないくらいだった。
「侍達も強かったな。あれは“気”か?」
「だね。――それに、見た? 二刀流で戦う人達」
「ノーガードで『殺られる前に殺る』って勢いで縦横無尽に駆けまわってたな。長い刀一本で敵をねじふせる奴らも凄かったが」
「あの長いのは、“太刀”っていうらしいよ? で、二刀流の、長めのが“打刀”。短めのが“脇差”」
「詳しいな……教えてもらったのか?」
「まぁね」
抜け目の無い奴だ、とラルフはエーリッヒを見て苦笑する。だが、脱線してしまっているので、話を本筋に戻す。
「で? 奴らが強いのがどうかしたのか?」
「文字通りの“常在戦場”で生きてきた彼らは――強い。彼らから学ぶべきものは多いと思わないかい?」
「つまり、“その技術を取り込みたい”ってことか?」
「それだけじゃない。――そう遠くないうちに、僕らも違う戦争に参加せざるを得なくなるかもしれない。その相手が、もっと強大な存在――神族、魔族かもしれないんだ。なら、今のうちに、僕ら自身も鍛えないと。神楽が交渉してくれたから、僕らの撤退は彼が決められる。なら、ここは最良の修練場所だとは思わない?」
「それで死んだら元も子も無いけどな」
「だねぇ。まぁ、引き際は誤らないよ。いざとなったら――ね」
「お前がいつも通りで安心していいのか不安になった方がいいのか、わからねぇわ」
「ラルフは見た目に似合わず繊細だからね」
「怒った方がいいんだろうが、お前やレインを見てると否定できねぇな……」
そうして、幼馴染み二人は楽しそうに笑い合うのだった。




