【第六部】第八章 城の復旧
――富央城内――
富央城を奪還したその夜。目覚めた神楽達はエーリッヒ達と一緒に富央城内に入った。
戦が終わり半日以上経っているが、暗くなった今でもまだ人々は作業を続けている。軍人だけでなくその家族も入城しており、皆で協力して取り掛かっていた。
仲間の死体を弔い、妖獣のたくさんの死体を積み重ねては火をつけて焼く。
また、城内にある家屋や設備の確認、整備もあった。――むしろ、そちらの方が問題で、多大な手間を取られている。
どこも彩乃が住んでいた屋敷と同じ有り様で、金目のものは根こそぎ持ち出され、中はがらんどうだった。代わりにあるのは妖獣達の糞尿だ。
感染病の心配もある。汚染されたものを清掃し、修復不可なものは、火で焼いた。
そのため、城内の至るところから煙が上がるという状況だった。
「こんな目立つことをして他の地域にいる妖獣達に勘づかれないか」という意見も人々から出たが、悠長にしている余裕は、今の和国軍には無かった。
何せ、今日が終われば、“鬼月”まであと18日しかないのだ。
鬼月には鬼共が鬼門や裏鬼門を通ってワラワラと現れる。それまでに、できる限り強固な防衛体勢を整えなければならない。
フォローにまわる諸将も皆をそう説得し、『可及的速やか』という言葉がしっくりくる程の迅速さで、城の回復、強化が進められた。
◆
――三の丸・屋敷――
神楽達には、三の丸にある屋敷があてがわれた。
――と言うよりも、本当は、イワナガヒメから本丸に入るよう勧められたが、神楽が辞退したのだ。
『どうしてでしょう?』
『俺の仲間の妖獣は別扱いしてもらってると言っても、戦の直後で気が立っている人も多いだろうから、余計な刺激は与えない方がいいかなと思って』
『神楽様達の働きは素晴らしいものでした。何か言ってくる者がいれば、私が――』
『その気持ちだけで十分だよ。――それに、気を遣わないでいい分、気楽なのもあるな』
『そう……ですか…………』
『そうしょげなくても……。何かあったら呼んでくれ。助けに行くよ』
『あ! 神楽様も護符を使えるんですね! では――』
そんなこんなで、留城の時同様、城の外縁部にある三の丸の屋敷をあてがわれたという訳だった。
気を遣われたのだろう。三の丸の中でも大きめで、他の家屋からは少し離れたところにある屋敷だった。
今、屋敷にはエーリッヒとラルフの二人だけがいた。神楽は妖獣の捕虜の扱いについて法明から相談を受け、心配する他の皆と共に神楽について行った。
屋敷の掃除をしながら、ラルフはずっと気になっていたことをエーリッヒに尋ねる。
「エーリッヒ、よかったのか?」
「うん?」
「慎重なお前は戦争参加に反対すると思ってたが」
「なんだ。気になってたなら早く聞いてくれればよかったのに」
「ちょっと不気味に思っただけだ」
「それはそれで酷いけど……。ちょうど二人きりだし、腹を割って話そうか」
エーリッヒは作業の手は止めず、自分の想いをラルフに聞かせるのだった。




