【第六部】幕間――追憶――
◇◇◇
旅団の出張任務を終えた団員達が里に帰ってきた。
任務と言っても、荒事ではない。里と懇意にしてくれている神獣達への挨拶まわりのようなものだ。
こんな時、いつも母――春に手を引かれ、楓と三人で里の入り口まで父――喜一を迎えに行っていた。そして父に抱きつき、楓と一緒におんぶや抱っこをしてもらった。
――それが嬉しかった。
だが、今回は慌ただしかった。
深刻そうな顔をした佐吉おじさん――父の親友――が家に駆け込んでくると、気まずそうに母に何かを伝えた。
それを聞いた母の悲鳴は、未だによく覚えている。いつもおっとり優しい母は、今にもくずおれそうだ。
楓が不安そうに自分の服の裾をつかんだ。自分は、そんな楓の震える手を、ぎゅっと握ったのを覚えている。
母は真っ青な顔で自分の手を引くと、家を出る。駆け足で里の入り口へと向かった。
自分はただただ、はぐれないよう、もう片方の手で楓の手をしっかりと握るだけだった。
◇
里の入り口は“地獄”だった。
布に包まれた“何か”の近くで泣き叫ぶ自分と同い年ぐらいの子供。その何かに覆い被さり泣き続ける女の人。
そんな光景があちこちで繰り広げられていた。
子供ながらに理解した。
――死んだのだ。彼らの近しい人が。
そして、自分もそうなのだと悟った瞬間、急に目の前がにじんだ。
「お母さん……。お父さんは?」
自分よりも幼い楓が母にそう聞いてしまった。その時に母がした表情は一生忘れないだろう。
一瞬真顔となり、眉を八の字にして唇をワナワナと震わせた。そして、目の端から涙がつーっと流れ落ちるのだ。
そんな時、佐吉おじさんが何かを持ってきて、母に手渡した。
「すまねぇ……。遺体は持ち帰れなかった……。せめてと思ってこれを持ち帰ってきたんだ。受け取ってくれねぇか?」
それは、絆石だった。父が母と分けて持つ絆石だった。
母はそれを大事そうに胸に抱えると、ついにくずおれた。そして、肩を震わせ背中を丸めうずくまる。
「お母さん……お母さん……!」
楓も異常事態を悟ったのだろう。自分の手を離すと、母に泣きながら抱きつき、そんな楓を母は抱きしめ返した。
自分は、泣きながらただただ呆然とそんな光景を眺めていたように思う。
そんな自分の肩に、佐吉おじさんの手が置かれる。
「坊主……。すまねぇ。俺が不甲斐ないばっかりに」
悔しいのだろう。父を助けられなかったのが。声が震えていた。
「アイツはいつもお前の自慢ばかりだった。お前の将来を楽しみに――」
話の途中、自分は佐吉おじさんに何と返したか……。
――そう。確か、こうだ。
「ダレがやったの?」
驚いたように佐吉おじさんが自分を見ていたことを覚えている。
そして、諦めたように力無く言う。
「俺が言わなくてもすぐにわかるか……。俺達を襲った奴らだが――――」
たぶん、この時に芽生えた感情が、今自分が和国の戦争に参加する根っこの部分だと思う。
『理不尽に奪う存在を許さない』
――それは、紛れもない“憎悪”だ。
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