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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第六部 “和国・北洲の戦い”編②
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【第六部】幕間――追憶――

◇◇◇


 旅団の出張任務を終えた団員達が里に帰ってきた。


 任務と言っても、荒事ではない。里と懇意にしてくれている神獣達への挨拶まわりのようなものだ。


 こんな時、いつも母――春に手を引かれ、楓と三人で里の入り口まで父――喜一(きいち)を迎えに行っていた。そして父に抱きつき、楓と一緒におんぶや抱っこをしてもらった。


――それが嬉しかった。



 だが、今回は慌ただしかった。


 深刻そうな顔をした佐吉おじさん――父の親友――が家に駆け込んでくると、気まずそうに母に何かを伝えた。


 それを聞いた母の悲鳴は、未だによく覚えている。いつもおっとり優しい母は、今にもくずおれそうだ。


 楓が不安そうに自分の服の裾をつかんだ。自分は、そんな楓の震える手を、ぎゅっと握ったのを覚えている。



 母は真っ青な顔で自分の手を引くと、家を出る。駆け足で里の入り口へと向かった。


 自分はただただ、はぐれないよう、もう片方の手で楓の手をしっかりと握るだけだった。



 里の入り口は“地獄”だった。


 布に包まれた“何か”の近くで泣き叫ぶ自分と同い年ぐらいの子供。その何かに覆い被さり泣き続ける女の人。


 そんな光景があちこちで繰り広げられていた。


 子供ながらに理解した。


――死んだのだ。彼らの近しい人が。


 そして、自分もそうなのだと悟った瞬間、急に目の前がにじんだ。



「お母さん……。お父さんは?」


 自分よりも幼い楓が母にそう聞いてしまった。その時に母がした表情は一生忘れないだろう。


 一瞬真顔となり、眉を八の字にして唇をワナワナと震わせた。そして、目の端から涙がつーっと流れ落ちるのだ。


 そんな時、佐吉おじさんが何かを持ってきて、母に手渡した。


「すまねぇ……。遺体は持ち帰れなかった……。せめてと思ってこれを持ち帰ってきたんだ。受け取ってくれねぇか?」


 それは、絆石だった。父が母と分けて持つ絆石だった。


 母はそれを大事そうに胸に抱えると、ついにくずおれた。そして、肩を震わせ背中を丸めうずくまる。


「お母さん……お母さん……!」


 楓も異常事態を悟ったのだろう。自分の手を離すと、母に泣きながら抱きつき、そんな楓を母は抱きしめ返した。


 自分は、泣きながらただただ呆然とそんな光景を眺めていたように思う。


 そんな自分の肩に、佐吉おじさんの手が置かれる。



「坊主……。すまねぇ。俺が不甲斐ないばっかりに」


 悔しいのだろう。父を助けられなかったのが。声が震えていた。


「アイツはいつもお前の自慢ばかりだった。お前の将来を楽しみに――」


 話の途中、自分は佐吉おじさんに何と返したか……。


――そう。確か、こうだ。



()()()()()()()?」


 驚いたように佐吉おじさんが自分を見ていたことを覚えている。


 そして、諦めたように力無く言う。



「俺が言わなくてもすぐにわかるか……。俺達を襲った奴らだが――――」



 たぶん、この時に芽生えた感情が、今自分が和国の戦争に参加する根っこの部分だと思う。


『理不尽に奪う存在を許さない』



――それは、紛れもない“憎悪”だ。


◇◇◇

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