【第六部】第五章 アレンはどこに
――支部長室――
「それで? 何で騒ぎを起こしてるの? 今日が特別に忙しいのは、見ればわかるでしょ?」
エリス、カール、クレアは秘書に通され支部長室に入ると、イザベラに促されるままソファーに座る。その対面のソファーに座ったままのイザベラが不機嫌さを隠さずに理由を問い質してきた。
全面的に自分達に非がある。苦労人のカールは当然のごとく謝罪から入った。
「お手間をおかけし申し訳ありません。ギルド立ち上げ申請で、ここにいない者も加えようとして注意を受けておりました」
カールが頭を下げながらそう説明すると、イザベラは片目を閉じつつ秘書を見る。
秘書は慣れたことのように両目をつむってみせる。これは、イザベラとの間でしばしば使われている、“肯定”の返しだった。
イザベラは疲れたようにため息をつく。
「で、本人の同意が取れず、揉めてたと……。そんなの、<念話>で本人に確認を取れば済む話でしょ?」
「それが、無理なのよ。『中つ国に行く』って最後に連絡を寄越したきり、全く連絡を寄越さないの。気になって<念話>を使える知り合い何人かに頼んだけど、皆無理だったわ」
エリスが過去のことを思い出してか、イライラを隠さずに言う。敬語すらままならないその物言いに、カールがハラハラする。
イザベラは気にした風はないが、少し興味がわいたようだ。
「で、誰なの? その相手ってのは」
「アレン・デイビスって言います」
「あら、飛び級のあの子ね」
カールが名前を答えると、イザベラは破顔一笑する。たった今まで不機嫌だったのが嘘のようだ。クレアがおずおずとイザベラに聞いた。
「あのぅ……支部長さんはアレン君をご存知なんですか?」
「そりゃあね。昨年、エーリッヒ達“青ノ翼”の推薦状を持って、ここに試験を受けに来たからね。で、試験課題を出したけど、ケチのつけようのない立派な成果を出してエクスプローラーになった優秀な子よ。直接関わったのは私。忘れる訳がない」
イザベラは当時のことを思い出してか、楽しそうに言う。そして、ムッとするエリス。カールは慌てて相づちを打つ。
「そうです! そのアレンです! 俺達、養成学校の仲間なんですけど、無事エクスプローラーになれたってので、アレンを見つけて一緒に活動したくて」
「なるほどねぇ……。だけど、それは難しいわね。だって今、“彼ら”は――」
そこまで言ったのに、イザベラは口ごもってしまう。三人――特にエリスの顔をちらりと気の毒そうに見て、それきり黙り込んでしまう。
「――教えてちょうだい。アレンがどうしてるのか、どうしても知りたいの」
エリスがイザベラに頭を下げた。それを驚いたように見つめる周りの面々。これまでの高慢とも取れる態度が嘘のようだ。アレンのことになると、本当にエリスは人が変わった。
「ありゃま……。お嬢ちゃんにとって、あの子は特別みたいね」
「わ、私にとっても特別です!」
「クレアは黙ってなさい」
クレアが張り合うように前に出ると、エリスがピシャリとはねのける。イザベラは楽しそうに笑った。
「ハハハッ! あの子も隅に置けないねぇ。こんな可愛い女の子達が追いかけてくれるんだ。男冥利につきるってもんだろうさ」
ひとしきり笑うと、イザベラは観念したように三人に向き直る。
「わかったわよ。教えてあげる。今、彼らはこの大陸どころか、中つ国大陸にさえいないの。――彼らは東に向けて航海に出たのよ」
イザベラから告げられた内容は、それを初めて聞く三人にとって、至極衝撃的な内容だった。




