【第六部】第四章 トラブル
――リムタリス・エクスプローラー協会支部――
「ではお次の方、どうぞ~」
長蛇の列がはけて、ようやく受付から声がかかる。エリス達は窓口のお姉さんに呼ばれるがまま、その目の前まで歩を進めた。
「合格おめでとうございます。ギルドの立ち上げは、あなた達三人でいいですよね?」
当然の質問だ。受付のお姉さんからしたら。エリス、カール、クレアの三人組みで列に並んでいたのだから。だから一応、ただの確認作業として聞いていた。
だが、エリスの答えは受付のお姉さんの予想外だった。
「いえ、わたし達三人と、もう一人の四人で登録をお願いします」
◆
エリスから『登録はもう一人で』と言われ、思わず周りを見回してしまう受付のお姉さん。そして、困ったように笑いながらエリスに尋ねる。
「あの~……? もうお一人はどちらに?」
登録には本人の意思確認が必要だ。だからこの場に来てもらう必要がある。だけど、今ここにいないのはどういうことか?
受付のお姉さんは何も間違ってなどいない。至極当然の確認だ。だが、それがエリスの琴線に触れてしまい、激昂させてしまった。
「それを探しに行くんです!!」
「え、えぇっと……?」
受付のお姉さんは困ったようにほおをかきながら、エリスでなく、残りのカールとクレアに目線で助けを求めた。二人がエリスをたしなめつつ、お姉さんに簡単に事情を説明する。
「エリス、それじゃ伝わらないだろ……。実はですね――」
◆
「は、はぁ……。つまり、昨年エクスプローラーになったアレン・デイビスさんをあなた達の立ち上げるギルドに登録したいと」
「そういうこと」
お姉さんが要約してくれて、それにうなずくエリス。しかし、次に続くお姉さんの言葉は、“NO”に他ならなかった。
「ご本人の意思確認が必要です。当たり前でしょう?」
「今は行方不明なの。――そうだ、協会ならアレンの居場所がわかるんじゃないの?」
「個人のプライバシーに関わる情報は調べられても教えられません」
「――はぁ? わたし達、仲間なんだけど?」
「エ、エリスちゃん、おさえて? ……ね?」
ピリッとするエリスと受付のお姉さん。だんだんと雰囲気が悪くなってきた。
言っていることはお姉さんが圧倒的に正しい。だが、アレンのことになるとエリスは人が変わる。
アレンがいなくなって以来多くのやっかいごとを処理してきた苦労人カールは、周りを気にしつつもその場をおさめようとするが――
「何してんだい! 後がつかえてるじゃないか!!」
「し、支部長!」
それよりも先に、二階のバルコニーの手すりに肘を乗せながら階下を見下ろす身なりのいい女性がこちらを大声で叱ってきた。――ここリムタリス協会支部の支部長イザベラだった。
イザベラの言うように、エリス達の後ろには申請待ちの人々が大勢並んでいる。
だが、試験に合格したばかりの新人達なので、野次は飛ばさずお行儀よく並んでいた。たまにため息と舌打ちがあるくらいだ。
しかし、その表情は心情を如実に語る。『トラブルが起きたんならどけ』と言わんばかりに険しかった。
困った受付のお姉さんはオロオロしてしまう。見かねたイザベラがため息をつきつつ、救いの手をさしのべた。
「その子達をこっちに寄越しな」
「ありがとうございます! ――さ、あなた達、二階に行って」
これ幸いとばかりにエリス達は二階に誘導される。イザベラはさっさと部屋の中に戻っていた。代わりに、秘書と思われる女性が応対した。
「さ、中へどうぞ」
エリス、カール、クレアは支部長室に招かれるのだった。




