【第六部】第三章 チーム
――リムタリス・エクスプローラー協会支部――
エリス達がエクスプローラー協会支部の門をくぐると、中は大勢の人でごった返していた。
ただでさえ現役エクスプローラー達のたまり場であるところに新人の合格発表が重なり、支部内にギルド申請受付があるのだから、これは仕方がないというものだろう。
ただ、いつもと違うのは、臨時対応として受付窓口が増設され、処理効率を上げているということだ。
いつもは一つしか無い受付だが、今は五つある。そのうち右端の一つは通常業務用。そして、残り四つは、ギルド申請受付となっていた。
さらにはその四つの窓口の中でも、右二つは既存ギルドの更新用に、左二つは新規立ち上げギルドの申請用と区分されていた。一目でわかるよう、窓口の横に大きな立て看板があるので、エリス達にもそれはすぐにわかった。
窓口にはそれぞれ支部員がつき、その前に長蛇の列が並ぶ。今も支部員達は大忙しで人の流れをさばいている。
エリス達は、一番左端の列――新規登録用窓口に並ぶ列の一つ――の最後尾についた。
◆
「すっげぇ人だな」
「さすがにわずらわしいわね……」
「だ、だからって、魔法をぶっぱなしちゃダメだよ? エリスちゃん」
「クレア。あんたはわたしのことを一体なんだと思ってるのかしら……?」
カール、エリス、クレアはアレンがエクスプローラー養成学校を卒業――というか追い出されて――以来、チームを組んでいた。
チームという程正式なものでもないが……要は、よくつるむようになったのだ。
エリスとカールはアレンが学校にいた時からの仲であったため、その後もなんとなく一緒に過ごすことが多かったのだが、当然のように学校内で噂が立った。
――『あいつら付き合ってんじゃね?』
それがエリスの耳に入り、怒り狂った<ファイアボール>が教室内に乱れ飛んだ。
ただでさえアレンが卒業して以来イライラしている時にそんな噂を立てられて、自制がきなかったのだろう。
職員室に呼び出され、エリスは厳重注意を受けてしまった。『次やったら退学させる』とまで言われてしまったのだ。
『な、なぁ。気持ちはわかるけど、落ち着けって』
『いいわよ。退学になったらなったで、アレンを追いかけるから』
『エクスプローラーになんなきゃ、追いかけられないだろ……』
『なんとかするわ』
『ほんとになんとかしそうには思うけど……そんなこと、エリスの両親やアレンだって望まないだろ?』
『…………そうね』
そんな風に悩むカールとエリスの元に、いけすかないキザ男が現れる。ミハエルである。今日は取り巻きを連れていない。
『やあ、エリス! ご機嫌よ……うっ!?』
『ダメだってエリス! 我慢我慢!!』
『……ああ! もう! 何の用!?』
ミハエルに魔法をぶっぱなそうとするエリスをカールが背後から羽交い締めにして止める。
アレンが卒業して以来、ミハエルは元気だった。
アレンに決闘で負けた後はしばらくしおらしくしていたが、アレンの卒業後はだんだんと元気を取り戻し、以前のようにエリスに度々ちょっかいをかけていた。
その度にすげなく追い返していたため変な噂は立っていないが、エリスにとってストレスには違いなかった。
『ミハエル! 悪いけど、今はほんとごめん!!』
『し、仕方ないな! 女の子の日かな――ぁ!?』
『殺す』
『ちょ! エリス! ほんと、我慢してくれ!? ――あ! クレア!! 助けてくれ!!』
爆発しそうなエリスをなんとかカールが食い止めていると、たまたまクレアが向こうから歩いてきた。
カールは慌ててクレアに助けを求める。だが――
『さ、三角関係なんて私には荷が重いわよぉ!?』
『『違うっ!!』』
顔を真っ赤にして天然ボケをかますクレアに、エリスとカールは息の合ったツッコミを入れる。
『まったく! しらけちゃったわ!!』
エリスは機嫌斜めにその場を去るが、カールはふと考えた。
(クレアがいれば、バランスを取れないか……?)
数々の気苦労を乗り越えて来たカールの直感である。
ミハエルはいつの間にかいなくなっていた。エリスを追いかけたのだろう。
それも心配だが、善は急げでカールはクレアに早速相談を持ちかけた。
『すまん! よければ、これから一緒につるまないか!?』
『――ちょおっ!? い、いけないわカール君! 私には、心に決めた人がいるの!!』
頭を痛めながらもカールは、新たに生まれた誤解をなんとか解き、『なぁんだ、そういうこと。いいよ~♪』とクレアが了承して、その後は三人でつるむようになったという訳だった。
クレア加入以後はカールとの噂が立つこともなくなり、エリスの機嫌もなんとか保たれた。
また、『エクスプローラーになったらギルドを組もう』という話にもなり、目的を共にする三人は、技術の向上に切磋琢磨するようになった。
そうして、三人は無事学校を卒業し、無事エクスプローラーとなり、今まさにギルドを立ち上げようとしている。
(アレン……お前のせいだぞ? 次会ったら逃がさねぇからな!!)
カールは今までの苦労を思いだし、人知れず涙を袖でぬぐうのだった。




