表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第五部 “和国・北洲の戦い”編①
363/494

【第五部】第九十ニ章 【琥珀・過去編】⑨

――里・神楽の家――



「カグラ」

「うん? どうした琥珀?」

「カグラはどうして“まそ”をあつかえる?」

「ああ。うちの一族は、仲良くなった妖獣の力を使えるんだ。これは、狐の女の子の力だよ」


 そう答えながら神楽は指の先から小さな炎を出してみせる。少し照れくさそうに、空いている方の手で頭をかきながら。


――ちょっと……いや、かなり気に入らない。


「むぅ……。その女の子、だれ?」

「えっと……一年前に一緒に遊んでた子で……って、いいだろ? おしまい!」

「お兄ちゃん、照れてる~♪」

「むぅ!」

「あらあら。琥珀ちゃん、やきもち焼いてるのね♪」


 楓と春が面白そうに入ってきて茶化すが、自分はちっとも面白くない。


「その子と会う!」

「いや、遠くにいて会えないんだ……。向こうに行くのは、後三年後かな……」


 そう言う神楽はちょっと寂しそうだった。


――それも気に入らない!


「カグラ! おさんぽ、行く!」

「――え? ちょ! わかったから引っ張るなって!!」

「あらあら。二人とも、気をつけてね♪」


 口元に手を当てころころと楽しそうに笑う春に見送られ、神楽を連れて家の外に出た。


――近くの山中――



「お~い! 勝手に里の外に出たら怒られるって!」

「カグラ、よくそうしてる!」

「――うぐっ!? 琥珀も言うようになったな……」


 神楽を連れて、自分が住んでいた山の中へと足を運ぶ。あそこには、神楽との素敵な思い出がある。川で魚を釣って食べさせてあげれば、きっと自分のことを好きになるだろう。


 神楽に喜んでもらいたい一心だった。


 神楽は小さくため息をつきながらも、「仕方無いな」と言いながらも笑ってついてきた。


――川辺――



「つりざお! 貸して!」

「はいはい。――ほら」


 川辺に着くと、早速釣りを始める。神楽はこうなることがわかっていたように、釣りの一式を用意していたみたいだ。自分に手渡してくる。


 それを受け取り、ご機嫌に釣りを始めた。



「みゅ~…………にゃっ!」

「おお! だいぶ上手くなったな!!」


 しばらく魚を釣り続けた。桶には、魚がもう何匹も入っている。持ち帰るのは手間だが、春や楓にあげる分もある。


 神楽は自分の釣り上達を拍手してほめている。


 それが誇らしく、胸をはってドヤ顔を決めてみせる。


 そうして、しばらく釣りをしていた所、“ソレ”は現れた。



(――っ!! 琥珀! ヤバい! “クマ”が出た!!)

「みゃあ!?」


 神楽が、慌てたように自分の耳元に手を当ててコショコショ話をしてくる。振り返り神楽が指差す先を見ると、大きな熊がノソノソと森の中から歩いてくるところだった。


 まだこちらに気付いてはいなさそうだったが、驚いて、思わず大きな声を上げてしまった。熊はこちらに気付いたようで、ノシノシと向かってきた。


「あ……ヤバいわ、これ。――琥珀。お前は逃げろ。適当に相手したら、オレもすぐ追いかけるから!」

「いっしょに逃げるにゃ!!」


 神楽の袖を引っ張るが、逆にトンと手のひらで押される。ふらついて尻餅をついてしまう。


「いいから行けって! ――もしオレがダメになったら、迷わず里に逃げろ。猫化して枝伝いに行けば、逃げられるだろ」

「イヤにゃ!!」


 神楽は涙目だった。本当は怖いのだろう。でも、気力を奮い立たせて囮になろうとしていた。


 そうこうしてる間にも、熊は近付いてきている。神楽は意を決して、熊に炎の玉をお見舞いする。


「こっちだ!」


 川辺は小石ばかりだ。熊の足元に炎の玉が着弾しても、直ぐ様消える。


 だが、熊の気を引くのには十分だった。


「ゴアァ!!」

「ひぃ!?」


 そこから、熊が神楽に向かい突進していく。神楽はベソをかきながらも、自分から離れるように遠くに走って行く。


――ドクン、ドクン……。


 自分の心臓の音が、かつてない程大きく聞こえる。


 神楽を守らなきゃ。でも、怖くて足がすくむ。


――そんなこと言ってる場合じゃない! でも、自分には熊と戦う力なんて無い。


 一瞬の間、葛藤している間にも、熊が神楽に急接近する。


「ク、クソッ! ――ああっ!?」


 神楽は、炎の玉で応戦しようとするも、緊張からか、狙いが定まらず、熊に当てられなかった。


 そして、足をもつれさせて転ぶ。熊は、しめたとばかりに、神楽の間近に急接近し、それまでの四足歩行から両腕を上げて立ち上がった。神楽に熊の影が落ち、どう見ても絶対絶命だ。


――それを見た自分の内側で、扉の開く音が鳴った。



「やめるニャ!!」


 いつの間にか、無我夢中で走り、神楽と熊の間に入っていた。両手を広げて立ち塞がる。


 かつて、長老が神楽をぶとうとした時と同じだった。違うのは、その神速のごとき移動力。


「ゴア!?」


 いつの間にか、瞬間移動もかくやという速度で自分の目の前に現れた琥珀に驚き、熊が思わず後ずさる。


「あっち行くにゃあ!!」


 無我夢中で跳躍し、熊の眉間を思い切り殴った。もちろん怖かった。――だけど、神楽を失う方がもっと怖かった。


 自分はどうなってもいい。でも、神楽だけは助ける。そんな捨て身の一撃だった。


 そして――



「――――ゴッ……!」


 眉間に自分のグーパンを直撃で食らった熊は、ふらふらしつつ……やがて、前のめりに倒れ込んだ。軽く地面が揺れる。


 警戒は絶やさず、熊をおっかなビックリ足でつんつんしてみる。動かなかった。死んでいるようだ。


 もう安心だと言うように、神楽に振り返る。


――そして、自分の内側から自然にわいた言葉で神楽を呼ぶ。


「“ごしゅじん”。無事にゃ?」

「バカ! 逃げろって言っただろ!? ――って、へ? ご主人?」


 神楽は泣きながら自分を怒ってすぐにキョトンとする。それが面白くて、腹を抱えて笑った。



――この日、自分は初めて力に目覚めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ