【第五部】第九十章 【琥珀・過去編】⑦
【翌日】
――長老富岳の屋敷――
「神楽……お前は、また里を出たのか!」
「ちょ! 暴力反対!!」
「みゃあ!!」
翌日、朝ごはん――とてもおいしかった!――の後、子供に連れられて大きな屋敷に行った。
そうしたら、急に老人が子供をぶとうとしたので、怒って間に入った。
「――! むぅ!!」
「ちょ! 危ないだろ!?」
すんでのところで老人が手を引っ込める。守ったはずの子供が急に自分に怒りだして訳がわからない。
「まぁ、よい。今回は許してやる。――その子の名は?」
「そう言えば……お前、名は?」
「ナ?」
聞かれてる意味がわからず首をかしげる。
「名が無いのか……。神楽、お前が名付けろ」
「え!? ――俺!?」
「そうだ。一緒に住むなら、名が無いと不便じゃろ。今すぐでなくともよい。しっかり考えて名付けるのだ」
「は、はい……」
そうして、用が済んだのか、子供は自分を連れて家に戻った。
◆
――神楽の家――
「ナってなに?」
「あらあら。名前のことかしら。――神楽?」
「オレが名付けることになった」
「え~。お兄ちゃん、だいじょうぶなの?」
家に戻ると、優しい女の人――たくさんおいしいごはんをくれる――に聞いてみた。どうやら、“なまえ”というものらしい。
「かぐら?」
「そう。それがオレの名前。――で、こっちが春。こっちが楓」
「母親を呼び捨てはどうかと思うわよ?」
「し、仕方ないだろ!? 説明してるんだから!」
よくわからないが、覚えた。順々に指差して言ってみる。
「かぐら」
「おう!」
「はる」
「ええ。よく出来ました!」
「かえで」
「うん! よろしくね」
なんか嬉しかった。そして、自分を指差して止まる。かぐら――神楽が笑ってそんな自分に声をかけてくる。
「“それ”を今から決めるんだよ。――というか、実はすでに考えてたり」
神楽はこほんと咳払いして自分を指差した。
「今からお前は“琥珀”だ! こ・は・く! ――言えるか?」
「こ・は・く!」
「あらあら。宝石から取ってるのね? 素敵じゃない」
「お兄ちゃんにしてはまともだね。――そうだね。綺麗な琥珀色の髪をしてるし、ピッタリだね!!」
よくわからないが、自分の“なまえ”をもらえて嬉しかった。
「こはく! こはく! こはく!」
「はは! 気に入ってもらえたか!!」
「琥珀ちゃん。もういい時間だし、お昼にしましょうか?」
「琥珀ちゃん。食器の用意、一緒にしよう?」
「うん!!」
自分を指差して何度も言う。皆がその名で呼んでくれる。
――自分が皆と一緒になれたようで、嬉しかった。




