【第五部】第八十四章 【琥珀・過去編】①
自分は、名も無い野良猫だった。
仲間はいたが、妖獣になれず寿命で死んだり、妖獣になっても神獣となる前に他の妖獣や人間に狩られて死んでいった。
そして、いつしか独りになっていた。
独りで山の中で小動物を狩ったり川の水を飲んで生きながらえていた。
特にどうしたいとかは何も無かった。
自分だけが運良く生き延びただけで、特に戦いに優れているという訳でもない。猪の妖獣にも勝てないのだ、神獣となった今でも。
自分より強い相手が来たら、木に登って逃げる、隠れる。これが自分の当たり前だった。
戦いは嫌いだ。痛いから。その日生きるための糧を得るために、仕方無く小動物を狩っているだけだ。
そんな風に、ただ漫然と生きてきた。
どれくらいそうしてきたかはわからない。時間というものを意識するのは、朝明るくなって夜暗くなることくらいだ。
明るいうちに食糧を確保して、暗くなったら巣に戻り食事をして寝る。
たったそれだけのことだった。
この生き方をつまらないと感じたことはない。他の動物やモンスター、妖獣達も皆、そうしてる。自分にとっても“生きる”というのはそういうことだった。
たったそれだけのことだった。
――そう。あの人間の子供に出逢うまでは。




