【第五部】第八十二章 富央城攻略戦⑱
――富央城・本丸――
「長門……そこをどけ!」
「断る……。お前達こそ退け。姫様や椿から話があったはずだ。投降した捕虜の扱いは“協力者”に委ねると」
富央城の制圧はその後も問題なく進められ、本丸や天守閣を含め、ほぼ全域を人界軍は制圧下に置いた。
そして、本丸の片隅――本丸を長く取り囲む塀の片隅に、怯えた妖獣達とそれを殺そうと取り囲む彩乃達がいた。侍や陰陽師達が鼠一匹逃すまいと大勢で取り囲んでいる。
長門達忍部隊は、投降した妖獣達を守るように前面に立ち、彩乃達と相対している。
彩乃達は皆殺気立った目で刀や護符を構えながら長門や妖獣達を睨む。まるで、長門達を裏切り者扱いするように。
だが、長門は普段無口ながらも、不器用に説得の言葉を紡ぐ。
◆
「協力者の活躍なくして、此度の圧勝は無かった」
「そんなこと!!」
彩乃が一番言われたくない言葉だった。内心理解しつつも、認めたくない言葉だった。
「お前達が認めようと認めまいと、彼らは椿と共に天守閣にはびこる牛頭やその側近達を残さず誅滅した。自分達だけの力でな。我々が陰ながらそれを見ていた」
「――くっ! だからと言って!!」
「彼らは求められた役目を果たした。ならば、次は我々が約束を果たさねばならぬ」
彩乃達は誰も反論できない。
その一線を越えてしまえば、自分達は“誇り”を失い、“自分達を苦しめている妖獣達と同じところにまで堕ちる”と、わかっているのだ。そう思っているのだ。
――この場にいない敬愛する姫様なら、そう言うであろうとわかっていた。
彩乃が静かに納刀する。悔しそうに、他の者も続いた。
「そいつらは縄にくくって家畜小屋にでも詰めておけ。――少しでもおかしな真似をすれば、迷わず皆殺しにする」
長門達にそう言い残し、彩乃は背を向ける。行き場のない復讐心を力ずくで抑え込むように、拳を固く握り締めながら。
そうして、富央城攻略戦は幕を閉じた。だが、休む暇などなく、直ぐ様皆で富央城内の確認、整備に取り掛かるのだった。




