【第五部】第八十章 富央城攻略戦⑯
――本陣後方――
「椿!!」
「姫様。牛頭を討ち取って参りました……」
「主様! ――琥珀ちゃん!?」
「稲姫。すぐに琥珀を休ませたい。すまぬが、寝所へ案内してくれぬか?」
「わかりんした!」
「神楽。――皆、生き残れた様だな」
「だが、琥珀が……」
青姫が気を失った琥珀を、神楽が疲弊した椿を抱えて、イワナガヒメや仲間達のいる本陣後方へと戻ってきた。
青姫は稲姫に案内されて、琥珀を抱えて近くの天幕へと運んで行く。神楽も続こうとしたが、思わぬ大音声に足をぬい止められてしまった。
◆
「バカ! こんなになるまで無茶をして!! 牛頭を討ち取った!? そんなことより、わたくしはあなたに無事に戻って来て欲しかった!」
「ですが姫様……。誰かがやらねばならぬことでした。ここまで事が上手く運んでいるのは、牛頭や側近達――敵の首魁を本隊から分断して殲滅したからでしょう」
目尻に涙をためながらイワナガヒメが椿を見上げて睨む。椿は困ったように力無く笑いながらも、必要なことだったと反論した。
イワナガヒメは、血だらけの椿の胸元に顔を埋めた。
「姫様いけません! お召し物が汚れてしまいます!!」
「椿……もう無理をするのはやめて……? お願いだから……」
「姫様……」
イワナガヒメは椿の胸元に抱きついたまま肩を震わせる。椿は困ったように周囲を見回し、神楽がこちらを見ているのに気付くと、困ったように笑った。
そんな時、神楽と椿の二人に声がかけられる。
「我が君。――其方も。ちと、話があるのじゃ」
――それは、常に無い程顔を怒りに歪ませた青姫だった。




