【第五部】第七十八章 富央城攻略戦⑭
――富央城・本丸――
天守閣の奇襲戦をなんとか一人の犠牲もなく終えた神楽達だが、琥珀が満身創痍だった。
青姫が琥珀を連れての離脱を申し出たので神楽も同意したが、椿はまだ戦って行くと言う。
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「お前達には感謝してもしきれない。私のことは気にせず離脱してくれ」
「『――はいそうですか!』って言える訳ないだろ!! ここは敵地のど真ん中だぞ!?」
「わらわは蛟と合流したいのじゃが……」
「ああ。俺も付き合う。琥珀が心配だからな。――椿だって消耗してるだろ! ワガママ言うな!!」
「……それもそうだな。済まない。流石にワガママだった……」
青姫に肩を貸してもらいやっとこさ立つ琥珀を見て、椿は気まずげに謝る。椿だって疲れ切っており、いつもの気の強さは鳴りを潜めている。だが、遠くで未だ戦っているだろう仲間達の方をしきりに気にしていた。
(仲間達が戦っているのに自分だけ逃げる訳にはという葛藤があるのはわかるが、これ以上は流石に椿だって危険だ)
そうは思うが、辛そうな椿を見ていられず、神楽は譲歩する。
「向こうに戻ったら状況がわかるだろ。ヤバければ、俺が戻って戦う」
「私達の戦いにお前だけを行かせる訳には……」
「何言ってんだ。もう十分巻き込まれてるだろ。――それに、俺はまだまだ戦えるからな」
「ほんと、お前は“異常”だな。アレだけ戦ったというのに」
「我が君。これ以上は、陣地に戻ってからにしようぞ。早く琥珀を休ませたい」
「ああ。じゃあ、出るぞ。――青姫。この<蒼炎>の壁は?」
「しばらくしたら勝手に消える。囮にして早う」
「わかった」
一刻も早く行こうと言う青姫にうなずき、神楽は椿を抱き抱え、来た時と同じ様に空に飛び立つのだった。すぐ後に琥珀を抱えた青姫も続く。
そうして、神楽達は戦場から離脱し、蛟達のいる本陣後方を目指すのだった。




