【第五部】第七十七章 富央城攻略戦⑬
――富央城・二の丸――
「<陽・土行・岩擲>」
「ゴアァッ…………!!」
唯が護符を手に呪文を唱えると、地面から硬質な欠片が寄せ集まり、護符の前面に岩塊を形成する。それは直線的に敵――牛の神獣へと飛んで行き、その体躯をよろめかせた。
「――――シッ!」
「ガバッ!?」
その隙を逃がすまいと、忍装束に身を包んだ男が俊足で敵にかけ寄り、すれ違い様にクナイで喉を斬り裂く。牛の神獣は喉を両手で押さえながら膝をつき、やがてドタリとうつ伏せに倒れ付した。
唯が男に近付き声をかける。
「長門さん、ありがとうございます」
「問題ない」
唯から礼を言われる男は、霞達とは別の忍部隊頭領の長門だった。裏門を開け、唯達陰陽師部隊を三の丸に招き入れてからは、以降共に城内の制圧を進めている。
奇襲が功を奏し、彩乃や霞達正門から入り込んだ部隊と共に三の丸の制圧はあっと言う間に済んだ。
今は、さらに内側である二の丸へと進軍し、敵の掃討に当たっている。
敵の反撃は激しくなりつつあるが、予想していた程のものではない。
唯は、その原因である天守閣の方を見上げた。そこは、今も蒼い炎で囲まれている。
ここ二の丸にいる妖獣達は、天守閣にいる牛頭達精鋭部隊と分断されており、指揮系統に大きな乱れが出ているのだ。
椿達の天守閣奇襲は、まごうことなき成功だった。
「さぁ! あと少しです!! 二の丸を制圧しますよ!!」
唯が仲間達にカツを入れる。
唯は内気な方だが、求められれば、自分を叱咤して指揮官としても振る舞える。最初はそれもぎこちなかったが、五助や仲間達の仇を取るという決意が唯の心を強くしているのだろう。
――今の唯は頼りがいのある、ひとかどの将となっていた。
健気にも努力する唯を見て、長門は(もう大丈夫か)とうなずくと、唯に別れを告げて他の戦場へと駆けて行くのだった。




