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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第五部 “和国・北洲の戦い”編①
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【第五部】第七十六章 富央城攻略戦⑫

――富央城・天守閣――


 富央城は中央の要所であるため北州にある他の城よりも強固に建造されており、天守閣も高く、7階建てだった。


 神楽と椿が降り立ち牛頭を仕留めた廻り縁はその最上階――7階であり、青姫と琥珀は、1階の入口付近で、天守閣から出てくる敵の排除に当たっていた。


――天守閣入口付近――



「まったく……タフだにゃあ!!」

「なんなんだこの猫は!? 有り得ないだろう!?」


 牛鬼(ぎゅうき)の神獣と格闘戦を繰り広げる琥珀。<闘気解放>しながら拳や蹴りを凄まじい速度で繰り出すも、敵もさるもの。そのほとんどが防がれる。ただ、痛みはあるようでその表情は苦悶に歪んでいた。


 しかし、連戦の疲れがあるとは言え、琥珀の猛襲を敵は腕をクロスさせて防いだ上、反撃まで放ってくる。


「――ぐっ……!」

「琥珀! 下がるのじゃ!!」


 牛鬼の神獣の膝蹴りが琥珀の鳩尾(みぞおち)に入る。琥珀は身体をくの字に曲げつつも、青姫と交代するように下がる。



「<蒼炎>っ!!」

「グアァァァアァァ……ッ!!」


 青姫が上空から<蒼炎>をお見舞いする。牛鬼の神獣は蒼い炎の中もだえ苦しみ、やがて膝をついて前のめりに倒れた。


 それを見届けた青姫が琥珀のもとに急ぎ飛んで行く。


「琥珀っ!!」

「いやはや、面目にゃいにゃ。青姫ちゃん……」

「そなたはようやっとる!! 後はわらわに任せて下がるのじゃ!!」


 周囲には無数の死体が転がっている。ほとんどが小鬼のものだが、中には今戦ったような神獣も8体程混じっていた。


 天守閣の周りは、青姫により<蒼炎>の壁がぐるりと隙間なく張られていた。言わずもがな、外部から天守閣を切り離すためである。


 この壁は最上階で神楽、椿、牛頭の戦闘が始まった直後に張られた。


 途端に天守閣内部が騒がしくなり、敵は最上階に向かう組と天守閣から出る組に別れた。


 その天守閣から出る組の敵を、入口と蒼炎の壁の間で、琥珀と青姫が排除に奮戦しているのだ。


 小鬼はさして驚異とはならなかったが、神獣はやはり別格だった。


 牛頭の率いる神獣は皆琥珀と同じパワータイプであり、中でも“鬼”は手強さが増す。逆に、青姫のような魔法タイプの敵はいなかった。


 攻撃も、琥珀の肉弾戦よりも、青姫の<蒼炎>の方が敵に通りやすかった。そのため、琥珀が時間を稼ぎ、青姫が一体ずつ確実に敵を焼き払うという戦法が取られていた。


 だが、もう琥珀も満身創痍だ。意地で<闘気解放>を維持していることは間近で見ている青姫にもわかり、直ぐ様退却すべきと青姫は判断する。


(我が君! 悪いが、もう限界じゃ!! 琥珀を連れて離脱するがよいか!?)

(わかった!! ――だが、こっちももう終わる!!)


 青姫は<護符通信>で神楽と連絡を取るが、もう終わりかけのようだ。青姫がホッと安堵するも、琥珀が入口を見つめる。そこから、一体の牛の神獣が現れた。何かに怯えるように入口を振り返っていて、琥珀達には気付いていない。



「まだおったか!!」

「たぶん、これで最後にゃ……!!」


 琥珀はふらふらながらも敵の神獣に向かっていく。青姫が慌てて琥珀の前に出た。


「後はわらわに任せよ!!」

「なら一緒にやるにゃ……。でも――」


 琥珀が入口を指差す。青姫も見た。そして、瞠目する。


――そこには、袴や着物、顔などを全身敵の返り血に染めた椿が、同じく血だらけの妖刀をダランとした腕に持ちながら入口から出てくるところだった。


 その表情は普段の椿を知る青姫をして背筋を凍らせる程の鬼気迫るものだった。


――そう。牛の神獣は、椿()()()()()()()()のだ。


 牛の神獣は<蒼炎>で退路を塞がれていることを知るや、決死の覚悟で雄叫びを上げながら椿の方にこん棒を振りかぶりながら突進していく。


「ウボァァァアァァァァッ!!」


 それは、もう言葉にもなっていない雄叫び――いや、悲鳴だった。


 だが、椿は動じない。ただ静かに、いつの間にか納刀している妖刀を腰だめに構える。


「不易神薙流……()の太刀――――<紅散華(べにさんげ)>っ!!」

「――――ゴブァッ!?」


 そして、抜刀。高速の斬撃が幾度も牛の神獣を斬り刻み、血の華を咲かせる。その返り血を浴びながらも、椿は全く動じていない。


 牛の神獣はその場に前のめりに倒れ込み、地面に血の海を広げていった。


 椿はそれを興味無さげに見つめると、妖刀の血を振り払い納刀し、今気付いたように青姫と琥珀に向き直る。――そして、歩いて向かってきた。


 琥珀と青姫が思わず身構えるが、入口から一つの影が飛び出してくる。


――神楽だった。慌てて椿と琥珀、青姫の間に立ち塞がる。



「ちょ! 椿! それ、味方!! 青姫と琥珀だから!!」

「わかっている。傷を負っているから手当てしようとしただけだ……」


 いつの間にか、いつもの椿に戻っていた。ふんとそっぽを向き、疑われて心外だというようにふて腐れていた。


「自分の格好、見てみろよ……控え目に言って怖すぎだぞ?」

「仕方無かろう。戦でそんなこと気にしてはおれん。――しかし、大成功だったな!!」


 椿がニッと笑う。血だらけでなければ様になっているのだが、今はそれが異様に怖い。


「お、おぅ……。まぁ、成功だな! ――琥珀、青姫。済まなかった。二人には無理させちまったな……」

「不甲斐なくて申し訳無いにゃ……」

「琥珀はようやった。今回は相性が悪かったし、多勢に無勢で、ほんにようやった……」


 満身創痍の琥珀と、涙目で琥珀を抱き締める青姫を見て、神楽の胸が痛む。


(俺は、二人は別格だといつから過信していた……? これだけの神獣を相手に無双できる奴の方が異常なんだ。なんで俺は――)


 神楽は自分の甘さ、傲慢さを痛感する。自分が異常な程の力を得たことで、万能感に支配されていやしないかと。――仲間をないがしろにしていないかと。


「二人とも、済まない……」



 神楽は、ただ二人に謝ることしか出来なかった。


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