【第五部】第七十二章 富央城攻略戦⑧
――富央城・正門前――
「なんだこの霧は!?」
富央城の正門には、外側内側それぞれに二体の神獣が番兵に付いていた。
いずれも、牛頭と同じ、牛の頭をした鬼である。ただ、その体躯は牛頭と比較すると二回りは小さい。――それでも、人間の並の成人男性よりは大きい訳だが。
角笛の音は聞こえていた。だが、門番である自分達が動くわけにはいかない。様子を見に近寄ってきた奴らに「お前が確かめて来い!!」と指示――というよりは怒号――を出してからは、不動の岩の如く、身じろぎもしなかった。
そうこうしている内に、城の内側から濃霧がたち込め、たちまちのうちに門番達の視界を白く染め上げた。
反対側に立っているもう一人の門番の姿すら見えない。城の内側に向かい門越しに怒鳴るも、内側の門番達からの返事はない。
いや――
◆
――ガコッ! ギイィ…………
ふと、城の内側から閂が抜かれ門戸が開く音がした。
「オイ! なぜ開ける!? 敵の罠に決まってるだろう!?」
門の外側にいる門番が叫ぶも、門戸は開き続ける。門番の鼻先を、風が通り過ぎた。
そして――
「残念♪ もうお仲間はみ~んな死んでるよ?」
「――アガッ……!」
白く染まった視界の中、背後からの声に門番は振り向こうとする。しかし、視界は回転した。
そして、狂う視界。一瞬の後に訪れる激痛。
目の前には、地面と霧。そして、自分の脚があった。
――首を斬られたと認識した頃にはもう遅い。門番の頭は、頭を失い倒れ来る自分の身体の下敷きとなった。
◆
「今だ!! 攻め込めぇっ!!!!」
「「「オオオオオオォッッッッ!!!!」」」
霧がたち込め、霞からの<護符通信>で『あとよろしく♪』の成功連絡が入ると同時、正門前の森から鬨の声が上がった。
彩乃の号令により、我先にと侍部隊が突撃していく。既に彩乃の隊以外も続々と到着しており、その人波は怒涛の如く正門に押し寄せた。
「はああぁぁぁぁぁっ!!」
一番に霧を抜け、裂帛の気迫と共に彩乃は近くまで様子を見に来ていた妖獣に切りかかる。
彩乃は右手に打刀、左手に脇差を持った二刀流スタイルで、妖獣を打刀で袈裟懸けに斬り捨てた後は、身体の勢いを殺さず流れらような脚運びで別の妖獣に斬りかかっていった。
他の隊員も霧から飛び出し、直ぐ様戦場は血みどろの乱戦と化した。
櫓の上に立つ妖獣は弓を装備していたが、そのほとんどは先行して城内に侵入していた霞の部隊によって無力化されていた。
そのうちのいくつかは霞の隊員が乗っ取り、上方から戦場を俯瞰し<護符通信>で味方に情報を流していた。
霞達が制圧できていない櫓からは弓矢が飛んで来たが、直ぐ様霞の隊員から火が放たれ、櫓が燃え尽きボロボロと崩れ落ちるのにそう時間はかからなかった。
城内はあっと言う間に悲鳴と怒号、そして炎に包まれるのだった。




