【第五部】第六十九章 富央城攻略戦⑤
――富央城近隣の森――
彩乃達侍部隊が進軍している西部とは離れた北西部。そこでは、唯達陰陽師部隊が進軍していた。
「<陽・木行・蔦縛り>」
「グギャ!?」
唯が呪文を唱えると、左手の人差し指と中指で挟む護符から、無数に分岐する蔦植物が飛び出す。
蔦は離れた場所にいる小鬼に絡み付くと、手足を縛り地面に転がした。
「<陽・火行・火球>」
「グギャァァァアァァッ!!」
唯の右にいる隊員が呪文を唱える。すると、護符から火の球が発生し、蔦で縛られ地面に転がっている小鬼に着弾して炎が燃え上がる。
やがて蔦ごと小鬼を焼き尽くすと、肉の焼ける匂いを残し、小鬼は見るも無惨な焼死体と成り果てた。
◆
陰陽師の使う護符には様々な用途がある。連絡用の<護符通信>のみならず、今唯達が使ったように、敵を拘束したり攻撃したりする用途にも有用だ。
式神を封じた札は“式札”と呼び護符とは区別されているが、その原理は近い。
陰陽道を修めた者が札に文字や符号などを書き込み、術をかけ力を込めることで札は護符となる。
その中でも特に、<式神>という強大な使役神を呼び出せる護符のことを区別して“式札”と呼んでいる。
陰陽師は魔素を直接扱えないが、“根源”に通じる手法を確立していた。
それは、神楽達の呼ぶところの“門”と同じだが、陰陽師達は直接門にアクセスしている訳ではなく、術を通して“門の外”――つまりはソフィアの呼ぶところの黄昏の世界――から力を引き出すことを感覚的に理解し可能としているのだ。
その黄昏の世界の力を込めた札こそが護符となる。
どのような力を付与するかは、陰陽や五行――火行・土行・金行・水行・木行――の属性に分類されており、使う術によって護符にかける術式や力の込め方は異なる。
西方の中つ国大陸やエルガルド大陸では、呪文詠唱によるイメージ構築で魔素を制御して魔法を行使しているが、便利な代わりに適正の個人差が激しい。――アーティファクトという例外はあるが。
それに対し、この護符を用いての術行使は、一度護符に術をかけ力を込めてさえしまえば、呪文を唱えるだけで誰でも行使できる。――<式神>という召喚術に関しては、その後の制御が別格に難しいため、陰陽師でなければ不可能ではあるが。
護符の種類により作成難易度が異なり高位の物程数は少ないが威力は強力である。
また、一度使ったら効力が失われ、再び力を込めるまでは使えないが、術式自体は護符に残っているので、再利用の手間は格段に省ける。
このように、護符は、魔素を直接扱えない和国皆が編み出した知恵であり技術。そして、戦や生活を支える根幹技術となっていた。
◆
「彩乃さん達は既に正門前に到着したようです。私達も急ぎましょう」
「はい!」
唯は陰陽師部隊の隊員達と共に、富央城までの道を急ぐのだった。




